Netflix映画「エクステリトリアル」が視聴ランキングで好調だ。配信開始から5月9日まで、世界総合ランキングで1位をキープ、5月19日時点でトップ3圏内を維持。日本でも同日時点でトップ10に入り続けている。
舞台はドイツ・フランクフルト。元特殊部隊隊員のザーラ・ウォルフは、6歳の一人息子ジョシュを連れて、アメリカ合衆国総領事館を訪れる。目的は就労ビザの受け取りだ。そこでジョシュの姿が突然消える。ザーラは息子を取り戻すために、持ちうる全てのスキルを使い、死闘を繰り広げる。
簡単に言うと「『96時間』が好きな人(筆者含む)は好きだわ、これ」なアクションスリラーだ。「96時間」では、リーアム・ニーソンがふんする元CIA(米中央情報局)の主人公ブライアンが、売春組織に拉致された娘を救出するために戦った。そう、これは女性を主人公にした「96時間」と言って過言ではないだろう。
オープニングでは、多くの人々が憩う平和な湖畔で、ザーラが息子のジョシュとくつろいでいる。ザーラがアメリカ人の夫の忘れ形見であるジョシュを愛していること、ザーラの戦闘能力がすさまじく高いこと、彼女がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っているといった基本情報を、ワンシークエンスで巧みに提示。脚本も手掛けたクリスティアン・チューベルト監督の、スマートな演出力に期待が高まる。
4年後、ザーラはアメリカ領事館で、前述したトラブルに巻き込まれる。受け付けをしたのに、何時間待っても自分の番号が呼ばれない。グズるジョシュをキッズルームで遊ばせて順番待ちをしている間にジョシュが失踪。血相を変えて捜し回るザーラとともに、領事館の警備担当者たちが館内を捜し回るが、ジョシュの姿は見つからない。
該当部門の責任者であるキンチ地域警備長と、ドノバン1等軍曹から、ザーラは衝撃の事実を告げられる。ザーラは一人で領事館を訪れた、ジョシュは最初からいなかった、と。見せられた訪問者リストにジョシュの名前はなく、館内の監視カメラにもジョシュは映っていないという。ドイツ警察に電話で助けを求めたところ、「領事館内は治外法権(エクステリトリアル)区域のため我々は中に入れない」と言われてしまう。つまり領事館内はアメリカ領土、ザーラは孤立無援状態に追い込まれる。
ここで頭によぎるのはザーラのPTSDだ。ひょっとするとジョシュは、ザーラがつらい記憶を忘れるために生み出した“イマジナリーサン(想像で作り上げた息子)”かもしれない……? なんてことはないとしても、自分を100%信頼できないザーラは、自分が単身で領事館に来た可能性に心がぐらついてしまうのだ。
領事館にいる誰かが、ザーラのPTSDに付け入り、「息子が誘拐された騒ぎ立てる妄想癖のある母親」として扱おうとしているのか? だとしたらその目的は? そんなことよりジョシュはどこに? 視聴者はザーラと同じ疑問を抱きながら、元軍人ザーラが実行する“人質救出作戦”を見守るうちに、彼女の過去に少しずつ触れていくことになる。
ザーラは2017年に派兵されたアフガニスタンで、敵の奇襲により夫と仲間をすべて失い、自分だけが生き残った。得意な戦闘スタイルは接近戦。狭い空間で敵と組み合うザーラを、ワンカット(に見える手法)でとらえるアクションは本作のシグネチャーシーンになっている。
また、その場にあるものを工夫して戦うスキルが高く、観察力と記憶力も超人的だ。彼女が機転を利かせ、次々と直面するピンチを打破していく姿に、興奮と感心が繰り返し訪れる。携帯電話を取り上げられた状態の彼女が、フィジカルとアナログの力で厳戒なセキュリティーを混乱させる様子も爽快だ。
ザーラを演じる俳優は、ドイツ出身のジャンヌ・グルソー。軍人時代から「彼女は戦う。絶対に諦めない」と評されてきたザーラを、ただの戦闘マシーンとしてではなく、傷を背負いながらも息子との未来をよりよくしようともがく人物として造形することに成功している。
ラストシーンで彼女は新天地へと向かう。ある種の密室や、外界から隔絶された状況での戦いを絶対条件にした続編に期待したい。(須永貴子)