小さな「ひな人形」に大きなロマン 禁止令で磨いた職人の「技巧」

社会 毎日新聞 2026年02月02日 06:15
小さな「ひな人形」に大きなロマン 禁止令で磨いた職人の「技巧」

 小さくても魅力があふれている、ひな人形が集まった。さいたま市岩槻人形博物館で開かれている企画展「ミニチュア×にんぱく雛(ひな)祭り~江戸の職人芸から近代の創作まで~」。小さな作品なので目を凝らすこともあるけれど、人形作りの奥深さに触れる内容になっている。【瀬尾忠義】

 ミニチュア人形ばかりだと思っていたら、展示室入り口近くで迎えてくれたひな人形は、大きい。江戸時代の「次郎左衛門頭立雛」で、男雛(びな)の高さは61・5センチ、女雛は45・2センチと大柄だ。

 「この男雛はにんぱく最大級の大きさです。江戸時代のひな祭りは華やかで、大きなひな人形が好まれました。また、初期のひな人形は立っている姿で作られていました」。そう説明するのは、同館学芸員の林進一郎さん。「にんぱく」とは同館の愛称で「人形に親しんでほしい」との願いが込められている。

 気になる作品から観賞しても構わないけれど、今回の企画展は入り口から反時計回りで観賞したい。「順路に従って観賞していただければ、ミニチュアひな人形の変遷が分かる展示になっています」と林さん。

 なぜ大きなひな人形からミニチュアに変わっていったか? そこには江戸幕府の意思が影響しているという。林さんが解説する。「江戸幕府が華美なひな道具を禁止するお触れを出したのです。享保期には8寸(高さ約24センチ)以上のひな人形が禁止されました。それでも江戸の街では大きなひな人形が作られていました。江戸時代後期になると、老中の松平定信の寛政の改革による厳しい取り締まりが影響し、小さなひな人形が作られるようになりました」

 いわば、ぜいたく禁止令がミニチュアひな人形を生み出した、というわけだ。その江戸時代後期、小さなひな人形は植物の芥子(けし)の実ほど小さいということから「芥子雛」とも呼ばれた。芥子の実は、よくあんパンの上にある粒だ。

 展示室を回ろう。「紫檀象牙細工蒔絵(まきえ)雛道具」(江戸時代)は、豪華できらびやかな細工が施された逸品だ。簞笥(たんす)などには精巧な蒔絵が。老眼なので細かい細工を見るのは正直つらい……。パネルで装飾などをクローズアップして紹介しているので心配はない。それでもパネルに頼らず、やはり作品とじっくりと向き合いたい。

 ミニチュアづくりで江戸の街で有名になったのは、東京・上野にあった「七澤(ななさわ)屋」。細工が精緻で、婚礼道具ではなさそうな道具類もあるのが特徴だ。

 「伝七澤屋製雛道具」を見ると、碁盤(3・2センチ)、将棋盤(同)に引きつけられた。将棋の駒「歩」の大きさは縦0・3センチ、横は0・25センチで、息を吹きかければ飛んでしまいそう。また、本箱「八代集」(8・4センチ)には本が収納されている。本は縦3・6センチ、横2・6センチと小さいが、文字が読める。

 これらの雛道具からは高い技術力を感じるが、どのような職人たちが、どうやって作ったのかは判明していないという。「何もここまでやらなくてもいいのでは、と思えるほど細かく表現しています。江戸のミニチュアのひな人形やひな道具を見ていると、無名の職人たちの『楽しませよう、驚かせよう』といった心意気を感じます。また、通常の道具では細かい作業ができないので、ミニチュアを作るための道具も別に作っていた可能性があります」。林さんの話を聞いていると、江戸の職人たちの誇りが伝わってくるようだ。

 展示室左側には、近代のミニチュア雛が展示されている。ひな祭りは明治時代に入ると、文明開化などの影響で一時衰退したが、明治時代中期になると再び活気を取り戻したという。林さんは「明治時代末期では百貨店での人形販売などが盛んになりました。ひな人形は子どもたちのためというよりも、美術品として意識されるようになり、大人の趣味のコレクションに変わってきたのです」。表情を観賞すると、江戸時代とは変わり「可愛い」というイメージが強調されているよう。時代の流れで人形の表情が変わってきたことが分かる。

 このような過程を経て「人形作家」という地位も確立していった。その一人が久保佐四郎。明治後期から昭和初期にかけて活躍した人形作家で、自ら制作した人形に初めて銘を入れたことでも知られている。

 この企画展で最小の人形は昭和に作られた「芥子雛」の一つで、男雛が約1・5センチ、女雛1・2センチ。小さくても色鮮やかに仕上げていることにも注目したい。

 ミニチュアをテーマにした展示を見終わって一つの疑問が湧いた。なぜ江戸時代は、大きなひな人形が好まれていたのだろう。林さんの推理を紹介したい。「あくまでも個人的な見解ですが、江戸時代は家が重視された時代でした。そのため、ひな人形も家の繁栄や家の格式を表現するために、見栄えのいい大きいひな人形が求められたのかもしれません」。正解が分からないからこそ、想像をかき立てられる。

 にんぱくの展示室はこぢんまりとしているけれど、自分のペースで観賞できるメリットがありそう。今回の展示は資料ごとにまとめると48点(参考展示の2点を含む)。セットではなく人形や道具をそれぞれ1品と数えたら、もっと点数は増える。ミニチュアの世界に込められた職人の技や粋を感じたい。そこには、大きなロマン、ひな人形を巡る物語も詰まっている。

 さいたま市岩槻区本町6のさいたま市岩槻人形博物館(048・749・0222)。3月22日まで。午前9時~午後5時。観覧料・一般300円▽高校生・大学生・65歳以上150円▽小学生・中学生100円。休館日は月曜日(2月23日、3月2日は開館)

 ※学芸員によるスライドトーク 2月14日、3月15日。いずれも午後2時から(申し込み不要。当日会議室に集合)

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