AI研究の加速に伴うコンピューティング資源の大量消費が続くなか、データセンター事業者は安価で潤沢な電力を求めて北へと向かっている。
スウェーデン中部のボルレンゲ市内を流れる川のほとりで、大規模なデータセンターの新設工事が進んでいる。そこはかつて製紙工場があった場所だ。開発企業EcoDataCenterの最高経営責任者(CEO)を務めるピーター・ミケルソンは、工事が始まった2025年9月にこう述べている。「かつて、ここには新聞が情報源だった時代の原料である紙を生産する施設がありました。いまボルレンゲは、人工知能(AI)と次の情報時代の原料を生み出す場所に生まれ変わろうとしています」
ボルレンゲの施設は、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、アイスランドからなる北欧地域で、現在建設中あるいは間もなく着工予定の50を超えるデータセンターのひとつだ。背景には、AIモデルの訓練や運用に適したデータセンターの需要増がある。コンサルティング企業CBREの調査によると、欧州内でデータセンターの処理容量がこれほど急拡大している地域はほかにない。
昨年、OpenAIは北極圏内のノルウェーの小さなフィヨルドの町に、10万基のGPUを配備すると発表した。マイクロソフトも追随する動きを見せている。この数週間だけで、フランスのMistral AIがボルレンゲ市内でのインフラ整備を目的に14億ドル(約2,180億円)規模のリース契約締結を予定していると発表し、データセンター運営企業atNorthはスウェーデンに巨大施設を建設する計画を明らかにした。さらに、別の企業も、完成すればフィンランドの現在のデータ処理容量を2倍以上に拡大するデータセンター建設計画の概要を発表している。
こうした建設ラッシュの一因に挙げられるのが、欧州における深刻な用地不足だ。膨大なAI処理作業を支え得る、十分な電力供給を備えた広大な敷地が不足しているのだ。
「極めて大きな需要があるにもかかわらず、その需要に応えることが欧州全体でかなり難しくなっています」と、CBREのデータセンター調査部門長を務めるケヴィン・レスティヴォは語る。「電力はますます貴重な資源となり、切実な供給不足に陥っています」。こうした背景から、「特にノルウェーが、データセンターの一大拠点として爆発的な発展を遂げているのです」と彼は言う。
これまで、欧州のデータセンター建設は、フランクフルト、ロンドン、アムステルダム、パリ、ダブリンといった主要都市や金融中心地の周辺に集中しがちだった。10億分の1秒の差が結果を左右するアルゴリズム取引のような用途を支えるため、クラウド企業が求めていたのはデータ送信のレイテンシー(遅延時間)を最小限に抑えることだった。この点を基準に考えると、北欧の国々は立地の面で魅力に欠けていたのだ。
ところが、ChatGPTの劇的な登場から半年が過ぎた23年夏、状況は大きく変わり始めた。北欧各国の政府機関に、データセンター開発企業から熱心な問い合わせが相次ぐようになったのだ。「明らかに潮目が変わりました」と、自国への貿易と投資の誘致を担当するフィンランド政府機関Business Finlandのデータセンター専門官を務めるヨウニ・サローネンは言う。「いまや、十分な電力を迅速に得られることが、最も重要な基準であることは間違いありません。どの企業も、市場に素早くアクセスできる土地を求めているのです」