人生最後のお金の使い道を自由に決めたい-。財産を死後に寄付する「遺贈寄付」が徐々に広がりを見せている。寄付先も金額も生前に指定できるほか、あくまで遺産から拠出されるため、老後の生活資金を心配する必要もない。寄付動機は一般的にみられる社会課題の解決だけでなく、自分の出身地や居住地など〝地元〟に恩返しをしようとする人が多いのが特徴だ。
「昔、お世話になった地元に恩返しがしたい。家族には一定程度(の遺産)を残せればいいかなと思う」
東京都北区に住む草彅正利さん(73)は、自身が生まれ育った秋田県仙北市に遺産の一部を託すことを遺言書にしたためた。
農村地帯にあった実家は経済的に豊かではなかったが、最終的に東京の大学に進んで卒業することができた。奨学金や県が都内で運営する寮に支えられたという。就職した保険会社を勤め上げ、ある程度の資産を築いた中、当時の自分と同じ境遇にある地元の子供の進学を助けたいと考えた。
遺贈寄付は遺言書を作成することで実行でき、寄付先が自治体や認定NPO法人、公益法人などであれば相続税はかからない。民法が制定された明治期から続く〝由緒ある〟制度だ。
生きている間に寄付が発生するわけではないため、経済的に余裕がなくても実施でき、1万円など少額からの寄付も可能だ。もちろん決めた額を寄付できなくなっても罰則はない。
特に子供などの法定相続人がいない場合や付き合いが薄い親族らが相続人になる場合、本人の思いを生かすことができる制度だ。
遺贈寄付の普及を進める日本承継寄付協会の代表理事で司法書士の三浦美樹氏は「ベストは資産を使い切ることかもしれないが、自分がいつ死ぬかは分からない。それなら『貢献できてよかった』と思える使い方があってもいい」と話す。
同協会が1000人を対象に行った令和7年の全国調査では、遺贈寄付の認知度は5年の調査から約10ポイント増の63.8%に上り、70代に限れば84.5%に達した。
保有資産別で40歳以上に遺贈寄付の意向を尋ねると、100万円以上から5000万円未満の幅広い資産帯で、寄付に前向きな回答者が軒並み5割超を占めた。
特徴的なのが、寄付先の団体が活動している地域を意識するかという質問で、全回答者のうち遺贈寄付を検討している人で地元重視の回答がかなりあったことだ。「いま住んでいる地域の団体を応援したい」が21.3%、「生まれ育った地域の団体を応援したい」が29.0%だった。
通常の寄付と比べると、動機として教育や貧困、被災者支援などの社会課題の解決より、地域支援を優先させる人が多かった。寄付先も社会福祉協議会やNPO法人が多い中、遺贈寄付では母校や動物愛護、文化芸術なども目立ったという。
三浦代表理事は「遺贈寄付は人生の最終章となる作業。社会課題への共感だけでなく、『自分の人生がそこにあった』と思える場所が寄付先に選ばれているようだ」と話している。
遺贈寄付の件数は右肩上がりで、国税庁の統計を基に日本承継寄付協会が集計した結果、令和5年が1142件と10年間で3倍近くになっている。金額も高額寄付者の有無でばらつきがあるものの、5年は10年間で2番目に多い約643億円に上った。
一方、日本では超高齢化に伴い、資産の循環を巡る課題が顕在化している。
ひとつは親が死亡した際に遺産を相続する子供らが既に高齢者となっている事例が増えていることだ。高齢者間で資産が循環し、金融資産の7割超を60歳以上が保有しているとされる。
また、遺産相続に伴い、地方部から人口が多い都市部に富が流れ込む構造的な問題もある。金融機関の調査では、今後30年で相続が見込まれる金融資産は総額約650兆円で、うち約2割の約125兆円が地域をまたいで移動すると試算されている。富の偏在が加速し、地方部の持続性に悪影響を及ぼす恐れがある。
寄付先を自由に選ぶことができ、出身地を寄付先に選ぶ人も多い遺贈寄付が新たな寄付文化として根付けば、資産を若い世代や地方部に循環させる手段の一つになり得るとされる。(福田涼太郎)