入り口は子どもしか通れない 前橋にある「世界一小さい書店」

社会 毎日新聞 2026年04月12日 17:00
入り口は子どもしか通れない 前橋にある「世界一小さい書店」

 前橋市郊外の電気工事業「ソウワ・ディライト」の社屋を訪ねると、社長の渡辺辰吾(しんご)さん(49)が迎えてくれた。笑顔で「森へ、どうぞ」。

 敷地の一角に、一般の人にも開放する「coco no mori(ここのもり)」を設けたのは2020年。牧場や、遊具を置いた空き地もある。

 木立の間に、三角屋根が見えてきた。23年12月に開店した「tiny tiny bookstore(タイニー・タイニー・ブックストア)」だ。床面積1・246平方メートルは、公式ギネス記録で「世界一小さい書店」に認定された。

 入り口は小さく、子どもしか通れない。板材には、市内の赤城神社から譲り受けた樹齢500年以上のご神木が使われた。蔵書は、絵本を中心に約300冊。微生物から宇宙まで実に幅広い。

 電灯がなく、薄暗いが……。「これを使います」。渡辺さんが手にしたのは、ヒマワリのような形のソーラーライト「リトルサン」。ライトは、環境問題への取り組みで知られるデンマーク出身の芸術家、オラファー・エリアソン氏の作品だ。

 そして、備え付けのブラックライトで床や壁面を照らせば、群馬県中之条町在住の芸術家、山形敦子氏による、細胞をかたどったような作品も浮かび上がる。まるで宝探しだ。

 渡辺さんは14年、2代目として「双和電業」(当時)を継いだ。「電気を使って、感動や喜びを提供したい」との思想がある。それにしても、なぜ、森や書店なのだろう。

 「以前はシリコンバレーなどを回って、デジタルテクノロジーの潮流を追いかけていた。最先端に触れる一方で、むなしい気持ちも芽生えた。そんなとき、エネルギーをチャージするのが森だった。自分でも森をつくってみようと思った」

 植林したエリアに造ったのが、小さな図書館「Tiny library(タイニー・ライブラリー)」。いのち、植物、宇宙、ものづくりをテーマに、世界中から集めた約1000冊を所蔵する。

 「置いてある本を通じて、私たちが大切にしている考えを、まちの人にも知ってもらいたかった」と渡辺さん。

 ユニークな図書館の存在を知って、県内外から来館者が訪れた。そんな時、見かけたのだという。大人が読ませたい本を、勝手に子どもに選んでしまう場面を。「ならば、大人が子どもの本選びに介入できない場所を」と考えて、世界一小さな書店が誕生したのだ。

 店員は常駐しない。だから、欲しい本があったら、子どもたちは木の枝からぶら下がる鐘を鳴らして、社屋から社員を呼ぶ。「お金は受け取りません。好きな本を手にする喜びを、子どもたちに体験してもらうのが目的なので」と、渡辺さんはこともなげに言う。

 この店で本を「買った」子どもたちは、どんな大人になるのだろう。なんだか、わくわくした。【坂巻士朗】

◇渡辺辰吾さんお薦めの3冊

▽スチュアート・ブランド創刊編集「ホール アース カタログ」(ポートラ・インスティテュート)

▽フィリップ・モリソン他「パワーズ オブ テン 宇宙・人間・素粒子をめぐる大きさの旅」(日経サイエンス社)

▽世阿弥「風姿花伝」

 前橋市小屋原町722の1。電話027・266・6711(ソウワ・ディライト本社)。営業時間は午前10時~午後5時。不定休。

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