ロボタクシー市場の覇権争いが激化しつつある。
電気自動車大手テスラ(Tesla)は6月にテキサス州オースティンで配車サービス開始を準備中。グーグル(Google)兄弟会社のウェイモ(Waymo)は全米主要都市を中心にサービス拡大を続けている。
両社の自動運転タクシーを支えるコア技術システムはそれぞれ「フルセルフドライビング(Full-Self Driving、FSD)」「ウェイモ・ドライバー(Waymo Driver)」と呼ばれる。
Business Insider編集部はこのたび、サンフランシスコ市内で両者の比較テストを独自に行った。乗車したのはロイド・リー記者とアリステア・バー記者だ。
結果は驚くべきものだった。
両記者はウェイモとテスラのいずれにも乗車したことがあり、両者劣らずポジティブな印象を抱いていただけに、科学的な性能分析ならいざ知らず、乗車体験を比較するテストでは大きな差は出ないと予想していたが、それは完全な間違いだった。
結論から言えば、テスラのFSDがあまりに深刻なミスを犯したことで、軍配ははっきりとウェイモに上がった。
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テストに使用した車種は、ウェイモがジャガー・ランドローバー(Jaguar Land Rover Automotive)の電動SUV『Jaguar I-PACE』、テスラが2024年式の電動セダン『Model 3』。後者はバー記者の愛車だ。
ウェイモ車は第5世代のウェイモ・ドライバー(2020年3月発表)搭載、LiDAR(レーザー照射測距)センサー5基、レーダー(電波照射測距)センサー6基、カメラ29基で構成される。
テスラ車は「HW4(ハードウェア4.0)」とソフトウェア「FSD v13.2.8」を搭載(テストの数日後に小規模なアップデート配信)。カメラは8基。
なお、テスラがオースティンで展開するロボタクシーサービスには今後リリースされるソフトウェア「FSD Unsupervised」が搭載され、人間のドライバーがハンドルに手をかけて監視する必要がなくなる。
その意味で、今回のテストでは商業運行中のロボタクシーサービスをフル比較するには至らなかった。製品のローンチ前だからやむを得ない。
直接的な比較が困難な中であえてウェイモとの比較に踏み切ったのは、2020年10月のベータ版リリースからテスラのFSDがどこまで進化したのかを見極めたかったからだ。そこで今回は乗車体験のみにポイントを絞って比較することとした。
両記者はサンフランシスコ市内を一望できる観光名所、ツインピークスの展望台を出発地に、NBAゴールデンステート・ウォリアーズが本拠とするチェイスセンターを目的地に設定した。ルート次第で6〜11キロほど。
両地点を選んだ理由は、カーブの多い区間や郊外、都市部など多様な道路環境を通過する上、出発地から目的地までインターステート(州間高速道路)280号線を含めて複数のルート設定が可能なため、自動運転システムの性能をテストするのに相応な条件が揃うからだ。
なお、ウェイモのロボタクシーはまだ高速道路を走行できない。一方、テスラは走行できる。高速道路を使った方が時間を節約できるので、FSDはチェイスセンター到着後、ツインピークスに戻る復路でインターステート280号線を経由するルートを推奨してきた。そのあたりの経緯は後ほど詳述する。
テストの実施時間帯は、ウェイモが木曜日の午前8時30分頃、テスラは同日10時頃。どちらの時間帯も交通量は低〜中程度で大きな差はなかった。
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両記者はほぼ互角の結果を予想した。
が、どちらの乗車体験が上かを決める企画趣旨に則って、リー記者はウェイモが誇る高精度センサー群を武器によりスムーズかつスマートな走りを見せると予測。
一方のバー記者は愛車テスラの有利を予想した。彼はプライベートでFSDを使って数百キロを走行、うち運転を代わる必要が生じたのはわずか2、3度だそうで、その経験からドライバー監視なしの自動運転タクシーになっても何の心配もないと強気を見せた。
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乗車してみて、自動運転システムの安全運転ぶりと積極判断のバランス感に終始唸(うな)らされた。
例えば、交差点で信号が黄色に変わっても怯(ひる)むことなく前進する一方で、命を預けるロボットドライバーに絶対してほしくない危険な挙動や判断は一度もなかった。
テスト走行の見どころは、一時停止標識の前で他の車に続いて停止した場面。右側の車線は空いていて、ウェイモは何を考えたか、とにかく車線の空きを認識して、まるで前の車が動くのを待ち疲れたかのように隣の車線に車体を滑り込ませたのだった。
何となく人間を思わせる、くすっと笑いたくなるような動きだ。読者の皆さんも、前の車がなかなか動かないとイライラして、通勤時間がたかだか数秒縮まるくらいなのにわざわざ車線変更してしまうことはないだろうか。
テスト終了後の評価で(リー記者が乗車した時の)録画を見たバー記者は、ウェイモ・ドライバーが時に生意気になったり、何らかの意思を持っているような「態度」をとったりしているように見えると表現した。
切迫感を持って運転しているのか、できるだけ早くチェイスセンターまで送り届けようと本気で気を揉んでいるように感じられるという。
「ニューヨークのイエローキャブのドライバーみたいなエネルギッシュさ」(バー記者)
なお、バー記者のこの粋な表現は彼の創作ではない。今年初めにサンフランシスコでウェイモに乗車したBusiness Insider編集長のジェイミー・ヘラーが口にした感想を拝借しただけなので、ご承知おきいただきたい。
ウェイモ広報担当のサンディ・カープ氏にこの車線変更の動きについて聞くと、現場でのウェイモ・ドライバーの判断および操作の経緯を具体的に説明できる詳細情報は持ち合わせていないとのことだった。
「ウェイモ・ドライバーは、乗客を安全かつ最短距離で目的地に送り届ける最適ルートを含め、次にどこをどう走るべきかを常に計算しています。その計算には、好ましい結果を得られると判断した場合に車線変更を行う選択肢も含まれます」(カープ氏)
結局のところ、あらゆるロボタクシーにとって、ロボタクシーに乗車していること(つまりはロボットに命を預ける不安と緊張)を忘れられるかどうかこそが、その良し悪しを評価する上で最も有効なリトマス試験紙ではないだろうか。
その意味で言うと、上記の車線変更のような注目すべき些細な判断と操作が瞬間的に確認されたものの、それ以外のほぼ全ての時間を不安や緊張に苛まれることなく快適に過ごすことができた。
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FSDもおおむね滑らかな乗車体験を提供してくれた。そして、それをわずか8基のカメラという(競合他社に比べて)相対的にコンパクトかつ安価な技術スタックで実現していることに、私たちは適切かつ十分な評価を与えるべきと考える。
例えば、路上で故障中の大型車に近づいた時は適切なタイミングで車線変更の合図を出した。
急ブレーキを踏む場面も一度もなかった。つい数年前には、テスラ車のオーナーからファントム・ブレーキ(障害物が存在しないのにソフトウェアが急ブレーキをかける現象)問題が報告されていたが、今回の比較テストではそうしたことは一度もなかった。
テスラがチェイスセンターに到着した時点で、先にテストを終えたウェイモと合わせて両者の走行動画が揃ったため、リー記者とバー記者は(復路の乗車前に)パフォーマンスの比較評価を行った。
両記者ともウェイモに若干の利があるものの、FSDの走行にも素晴らしいものがあったとの結論にたどり着いた。
ただし、話はこれで終わりではない。
チェイスセンターからツインピークスまでの復路、テスラのFSDはインターステート280号線を経由するルートを推奨した。高速道路についてはまだ試験中のため走行できないウェイモには選択できないルートだ。運転内容も完璧だった。
ところが、FSDはその後いくつかのミスを犯した。しかも、最後の一つは深刻すぎるエラーだった。
サンフランシスコは路面を緑色に明るく塗った自転車専用レーンのある道路が多い。インターステート280号線を抜けた後、テスラは右折してその自転車専用レーンに誤って進入し、数秒間そのまま走り続け、最後は正しい車線に復帰した。
そして、復路の目的地であるツインピークスまで1キロを過ぎたところで、今度は赤信号を無視した。理由は分からない。
現場は、スリップレーン(右折専用車線)のある交差点なのに信号がある相当複雑な交差点。ウェイモは復路で別のルートを走行したため、この交差点を通過していない。
コンソール画面を見る限り、FSDは赤信号を検知し、交通規則に準じて一度は停止している。しかしその後、信号が青になっていないのにテスラは走り出した。
結果として他の車や歩行者との接触ないし衝突には至らなかった。FSDはその手のリスク検知に長けている上、別の信号が赤だったので進路を横切る車や歩行者もほぼゼロだった。
とは言え、テスラが赤信号を無視してゆっくりと交差点に進入し、抜けるまでの時間は、後部座席にいたバー記者にも、直後に録画でその瞬間を見たリー記者にも、程度に差はあれど衝撃をもたらした。
同じような問題をオンラインフォーラムで報告しているテスラ車のオーナーも複数いて、シェアされた動画を見ると、やはりFSDが赤信号を検知したにもかかわらず発進していた。
レアケースなのか、それとも割と頻繁(ひんぱん)に発生している問題なのかは定かではない。テスラが問題の存在を認めて対応に動いた形跡も現時点では確認されていない。広報担当にコメントを求めても返答はなかった。
この重大なミスが確認された時点で、比較テストの勝者は決まった。
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テスラのFSDが運転免許試験なら即時不合格になるような致命的失敗を犯したことで、今回の比較テストの勝者はウェイモとするのが妥当と両記者は判断した。
ただし、坂とカーブの多いサンフランシスコの道路をウェイモに全く引けを取らないレベルで走破できたことは相応に評価すべきだし、ウェイモが現時点で対応していない高速道路をルート設定できることも大きな有利点と位置づけるべきだろう。
なお、今回の比較テストとは別に、リー記者がプライベートでウェイモのロボタクシーに乗車した際、テスラが赤信号を無視した件の交差点を通過させてみようとしたところ、マップ上では目的地までの最短経路と表示されているにもかかわらず、ウェイモ・ドライバーがその交差点を全力で回避しようとするのが見て取れたという。
何らかの技術的な事情があるのかもしれないが、何にしても信号無視のような人間の命を危険にさらすエラーは看過できない。
予定通り6月に自動運転タクシーサービスが開始されれば、こうしたエラーが生じた際に介入できるセーフティードライバーも同乗しないのだから、問題はますます深刻だ。
最初に触れたように、両記者はテスラとウェイモの自動運転システムがほぼ互角の性能を発揮し、普通なら見逃してしまいそうな些細なミスや不具合を探して重箱の隅をつつくようなパフォーマンス比較になると事前予想していて、信号無視のようなあからさまなエラーの発生は想定していなかった。
テスラは6月に展開するサービスをあくまで「試験的な」ものと位置づけており、ローンチ当初は規模的に限定されたサービスが予想されるものの、理論上あらゆるテスラ車に低コストの自動運転システムを搭載できる圧倒的な拡張性の高さを武器に、急速なサービス拡大が進むとしている。
「2026年下半期には(監視なし緊急対応ドライバー同乗なしの)完全自動運転システムを搭載した数百万台のテスラ車が公道を走っている光景が見られるでしょう」(マスク氏)
そうした展開が実現することを願ってやまない。
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