安倍氏銃撃、判決と報道の乖離

社会 産経新聞 2026年02月01日 14:00
安倍氏銃撃、判決と報道の乖離

奈良地裁は1月21日、安倍晋三元首相銃撃事件の裁判員裁判で、山上徹也被告に対し無期懲役の判決を言い渡しました。判決要旨によれば、①被告は旧統一教会に一矢報いる目的のため、本筋でないと理解しつつ、自身の都合を優先させて元首相の襲撃を決意した②元首相には被害を正当化できるような落ち度は何ら見当たらない③被告の短絡的で自己中心的な意思決定過程に生い立ちの大きな影響は認められない―としています。非常に大きな疑問は、この判決における被害者と被告に対する認識と、多くのマスメディアが展開してきた論調が、大きく異なっている点です。

事件を契機に、マスメディアは、安倍元首相・自民党と旧統一教会の関係を「深い関係」(朝日新聞)、「癒着」(TBS)などといった曖昧な言葉で批判し、テロリズムの被害者である安倍元首相に落ち度があったかのような印象操作を行うと同時に、テロリズムの加害者である被告に寄り添う報道を展開してきました。しかしながら現実の安倍政権は、平成30年に消費者契約法の改正を行い、旧統一教会の資金源であった霊感商法の存続に壊滅的な打撃を与えました。実際、消費生活センターに寄せられた旧統一教会関連の相談件数は、安倍政権時に激減しています。

何よりもこの事件を巡るマスメディア報道の深刻な問題は、暴力で要求を実現するテロリズムにインセンティブを与えてしまったことです。

裁判において被告は、宗教2世への注目や解散命令などの社会の動きについて「こうなってくれたのはありがたい」と心情を吐露、事件を起こすことで「報道されたいという考えがあった」「安倍氏が相手なら理解を得られる」などと発言しています。つまり、マスメディア報道の論調を見透かして目的を達成することを意図していたのです。

そしてマスメディアは、被告の思惑通りに、その生い立ちなど感情に訴える報道を展開することで世論を喚起し、その目的の実現に大きく貢献しました。英誌エコノミストは、テロリズムの加害者である被告に対し、驚くほど多くの日本人が同情を示したことを「衝撃」と報じています。

安倍元首相は、民主主義国家の日本で歴代最長の期間にわたって首相の激務を全うし、世界各国からも愛されました。その命を民主主義の根幹である選挙演説中に奪った卑劣な暴力を棚に上げ、加害者の目的達成に貢献したマスメディア報道は本末転倒です。テロリズムに関する報道がどうあるべきか、言論を守る使命をもつマスメディアは自らの報道倫理を問い直す責任があります。

ふじわら・かずえ ブロガー。マスメディアの報道や政治家の議論の問題点に関する論考を月刊誌やオピニオンサイトに寄稿している。

関連記事

記事をシェアする