「またあんな強引なことを始めるつもりなのか」
成田空港の滑走路新設・延伸を巡り用地の「強制収用」手続きが検討されていることについて、千葉県芝山町で農家を営む70代男性は、ため息をもらす。自宅は移転対象地区にある。近隣は成田国際空港会社(NAA)による買収が進み、更地も増えた。
空港建設が決まった1960年代にも、当時の自宅が立ち退きを迫られた。その時に手に入れた自宅や田畑が今回、移転の対象に。「強制収用されるのだろうか……だからといって考えを変えるつもりはない」。納得できる代わりの田畑が見つからないこともあり、とどまるつもりだという。
成田空港の建設は、国や新東京国際空港公団(NAAの前身)が地元の意見を十分聞かないまま計画を進めたとされ、78年の開港前、「成田闘争」と呼ばれる建設反対運動が起き、警察と反対派の双方に死者を出した。建設用地の買収を拒む農家が相次ぎ、強制収用も実施された。
こうした経緯から「成田での強制収用はタブー」とされてきた。ただ、NAAが再び検討に入ったことに対し、開港当時のような激しい反対運動は起きていない。
「羽田空港に負けない、良い空港を造るには3本目の滑走路しかない。(新滑走路は)地域の大きな希望だ」
芝山町の地権者の一人である石井新二さん(78)は、空港拡張に理解を示す。
かつては建設反対派の急先鋒(せんぽう)として活動。「(90年代に強制収用の)取り下げを国に要求し、実現した。土地収用法を封印したようなものだ」と振り返る。
しかし、今回は一部地権者らでつくる「空港と共存共栄を目指す会」の会長として、NAAに強制収用の手続きを進めるよう申し入れた。開港当時と異なり、「丁寧に交渉している」とNAAを評価。「任意による用地取得は限界に来ている。強権的な手法だが、『伝家の宝刀』の土地収用法を使ってでも、(滑走路の新設・延伸を)実現する意思を示してほしい」と語った。
地権者の間でも見方が割れる用地確保の方法について、千葉県の熊谷俊人知事は2日の定例記者会見で「まずは話し合いで解決するものだと思っている。地権者へ引き続き説得を続けることが必要だ」と述べ、強制収用に慎重な姿勢を示した。【合田月美、中村聡也】