「第3の賃上げ」といわれる企業の福利厚生の拡充。都心では1千円超えランチも当たり前となる外食価格高騰のなか、社員食堂回帰に注目したい。4月の制度改正で従業員への食事補助費の非課税枠が倍増し、よりお得に利用できる環境が整った。企業が魅力的な社食を用意することで従業員のコミュニケーションの活発化やモチベーション向上も期待できる。最近は厨房(ちゅうぼう)なし・料理人不在でも完結する「キッチンレス社食」が増加。その一つで一般も利用できる東京・新木場のユニークな社食を訪ねた。
JR京葉線、東京メトロ有楽町線、東京臨海高速鉄道が交わる新木場駅(東京都江東区)。東京駅から9分の立地だが、街は倉庫が立ち並ぶ殺風景な景色が続く。そんななかにカフェの看板を見つけた。脇道を奥に進むと、貯木場の運河に面した心地良い空間が広がる。注文した麻婆ナス丼がとろっとしておいしい。
ここは三井不動産「三井リンクラボ新木場2」。スタートアップから大企業まで30社超の研究所が入居し、研究者ら約250人が働く新業態のレンタルラボ(賃貸型研究施設)だ。
共同社食のカフェは外部にも開かれている。「飲食店が少ない地元からの要望もあった。近隣で働く方だけでなく、お子さん連れのお母さんや都立夢の島公園から散歩してくる方もいます。いろいろな人に来てもらいたいし、楽しんでもらえる工夫を考えていきたい」と、三井不動産イノベーション推進本部の西尾友宏さん(40)。
コーヒー150円、日替わりランチ730円、カレー・麵類600円など手頃で、従業員は所属企業の社食補助でさらに安く利用できる。平日午前9時~午後5時までの営業だ。
敷地面積9千平方メートルのレンタルラボは、材木倉庫跡地に3年前に開設された。三井不動産は新木場にこの5年で3つのライフサイエンス研究支援拠点を新設し、流通構造の変化で貯木場が使われなくなった街の未来図を予感させる。社食での出会いで思わぬ化学反応が生まれるかも!? 「新木場を新しい価値を生みだす、交流とイノベーションの街にしたい」と西尾さん。効率面からキッチンレス社食を採用したが、ヒーターや炊飯器を用意し、調理済みの料理をスタッフが使い捨ての器に盛って、温かい状態で提供している。
◇
東京・西麻布「エンゾパステリア」などで料理長を務めたイタリアンシェフ、佐野昌之氏(51)が総料理長。都内2カ所のセントラルキッチンで調理した昼食を1日約2千食、首都圏の社食に配送しているボンディッシュ(東京都千代田区)は8年前、キッチンレス社食に参入した草分けだ。令和2年で5カ所だったが、現在は過去最高の44カ所に広がっている。
オフィスの設備や広さに応じて提供形態をカスタマイズでき、社食設置をあきらめていた企業のニーズをとらえた。「多様な部署から人が集まる社食にはコミュニケーションのハブの役割があり、人材採用においても強みになると企業側も期待している。制度改正も追い風になった」と広報の石川美佑(みゆ)さん(29)。
今月1日から国の通達により、従業員への食事支給の所得税非課税限度額が1人あたり月額7500円(改正前3500円)に引き上げられた。自己負担率50%以上が条件だ。「例えば1千円のランチに企業が半額補助すると500円で食べられます。従来の非課税枠で利用できる上限は月7回まででしたが、今月からは月15回。従業員が約2倍の補助を受けられる制度になりました」と石川さん。
利用頻度が上がれば飽きない工夫はより重要。同社では定食、カレー、麵類、丼それぞれ40種類を用意し、約2カ月間メニューが重複しない構成だ。各社食へは自家焙煎工場から1日8500杯分のコーヒー豆も届けており、チーズケーキやパンとともに昼食以外の活用も促している。
◇
男性社会だった昔の社食メニューは糖・塩・脂のがっつり系が多く、意図的に避ける女子もいた。野菜のおかずがうれしい今時の社食が女性活躍の反映にも見えて、しみじみと味わう。(重松明子)