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緩い年金改革、給付3割減の不安解消遠く 底上げもパート加入も先送り

緩い年金改革、給付3割減の不安解消遠く 底上げもパート加入も先送り

 「来週末(5月30日ごろ)には採決し、衆院通過という運びに持っていきたい」  立憲民主党の野田佳彦代表は24日、報道陣を前に胸を張った。衆院通過と語気を強めたのは、国会提出直前に与党が削除した基礎年金の給付底上げ措置を立憲民主党の提案で復活させた年金制度改革法案のことだ。  老後の生活を支える公的年金は今、大きな曲がり角に差し掛かっている。中でも問題となっているのは、20歳以上60歳未満のすべての人が加入する国民年金(基礎年金)。少子高齢化の影響などで、過去30年と同様の横ばいの経済状況が続くと、その給付水準が30年後には約3割減少する見通しとなっている。  ところが、その底上げのための改革策を巡っては、資金の出し手となる会社員らが加入する厚生年金基金側に不満がくすぶる。国にも年間2兆円前後の巨額負担が新たに生じることから、与党は改革法案に基礎年金底上げに関する項目を盛り込まなかったのだ。  立憲民主党の修正案は、それを元に戻す格好だが、年金改革法案は7月の参院選を前に与野党の党利党略で迷走を続けたのが実態だった。  「この仕組みを参院選までに国民に理解してもらえるか。内閣支持率20%台という調査さえある石破茂首相の説明を聞いてくれるかどうか、はなはだ疑問だ」。4月初め、自民党のある有力参議院議員は、筆者の取材にこう吐き捨てた。この時点では、与党は基礎年金の底上げ策を法案から削除するかどうか最終決定はしていなかった。  日本の公的年金は、基礎年金を1階とすると、会社員などが加入する厚生年金が、その上に乗る2階建て構造。厚生労働省内では基礎年金が将来、約3割も減る見通しになることが、ここ数年、大きな問題となってきた。  自営業者など国民年金のみの加入者の場合、40年間加入した人の年金は月6.9万円(2025年)。単純に言えば、これが4.7万円程度に削減される計算となる。正社員で働いた期間がないか、あっても短い40〜50代の就職氷河期世代などは、特にその打撃を受けることになる。  そこでここ数年検討してきたのが、前述の自民党有力参院議員が言う改革策だ。基礎年金は、国民年金と厚生年金それぞれが加入人員数(国民年金は自営業者など第1号被保険者)に応じて拠出金を出して運営してきた。改革策では、厚生年金側が、その積立金を活用することで基礎年金の拠出を増やすという。さらに現在、基礎年金財源の2分の1となっている国庫の負担分も増額して給付を押し上げる考えだった。  この改革策を実施した場合の厚労省の試算によると、24年度に65歳になった現在の高齢者夫婦のモデル世帯では、年金の総受取額は5936万円(平均余命の22年間受給)となって現行制度より31万円減るが、基礎年金中心の世帯の場合は21万円増える。一方で、40年度に65歳になる将来の高齢者夫婦のモデル世帯では、現行より451万円、基礎年金中心世帯でも215万円増えるという。狙いは達成できるという予測となる。  だが、厚生年金からの拠出増には同年金加入者から異論が出た。「積立金を基礎年金に使われることに違和感がある」「一般の厚生年金加入者が理解するのか、納得するのかというところは疑問を感じる」。年金改革を議論する厚労省の社会保障審議会年金部会の24年12月10日会合で、経団連と日本商工会議所の委員が、慎重姿勢をはっきりとのぞかせたのだ。 ・米政府揺さぶるイーロン・マスクの「DOGE」 効率化の手法・成果に賛否 ・ドイツ経済は3年連続のマイナス成長になる? ロンドン支局・酒井記者に聞く ・東証プライム企業に持続可能性の開示義務 経営者悩ます供給網の脱炭素  “問題”はそれだけではない。ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫上席研究員の試算によると、平均的賃金で厚生年金に40年間加入した単身の会社員の場合、26〜45年度までは年金受給額が今よりも減少するのだ。特に35~36年ごろの減少額が大きく、月額7000円程度減るという。とすれば、仮に45年度までに亡くなった場合、大きな影響を受けることになる。  厚生年金側の資金を一部とはいえ基礎年金のみ加入する人に使う上に、ある年代までは給付減額になるとすると、理解を得るのは簡単ではないかもしれない。自民党内でも、選挙を控える参院議員の間に強い不安が広がったのはこのためだ。

経済 日経ビジネス
2025年05月27日
「スキルハイブ」で学び促すユニリーバ リスキリングは結果が問われる時代へ

「スキルハイブ」で学び促すユニリーバ リスキリングは結果が問われる時代へ

 「リスキリングは結局のところ、バズワードにすぎない」。最近の日本企業の一部には、こんな白けたムードが漂っている。eラーニングを導入したところで社員は学ばない。高額の講師を雇って研修を実施しても右から左へ聞き流すだけ――。そんな実態に嫌気がさした人事担当者は少なくないだろう。  「手当目的で業務に使わない資格の取得に張り切る若者もいたし、定年前にリスキリングセミナーに行かされて、迷惑そうにするシニアもいた」。食品業界の元人事担当者は苦笑いをしながらこう振り返る。  お仕着せのリスキリング施策では社員は白けるばかり。学びを活発化させるには、人事制度それ自体を見直す必要がある。スキルとキャリアとを連動させ、新たなスキルを獲得した社員に活躍を促し、成果を出せば相応の処遇ができる環境を整える必要があるのだ。  先んじているのは欧米企業だ。終身雇用が一般的だった日本に対し、欧米では人材の流動性が高い。そのためポジションの多くは属人的ではなく、代替可能な形で設計されている。ポジションごとに必要なスキルを明示し、社員が自律的にキャリアを構築していける環境を用意する。そうして優秀な人材をつなぎ止めてきた。  その手法を日本でも展開しているのが英国に本拠を置く消費財メーカー、ユニリーバだ。同社の日本法人は社員の入社時、個人と会社のパーパスを擦り合わせるワークショップを実施する。「この会社で働く意義」を半日かけて考えてもらうのだという。  ユニリーバで働く意義が明確になれば、会社はその実現に向けて社員を後押しできる。「フューチャー・フィット・プラン」というロードマップを作り、社員がパーパスに沿ったキャリアパスを描いていく。  このときに役に立つのが「スキルハイブ」と呼ばれる独自のツールだ。部署ごとに必要となるコアスキルと、担当ごとに必要なスキルとがハチの巣状に記されている。社員はこれを参照し、なりたい姿に近づくために必要なスキルを把握。その習得に必要な学習項目も確認できるため、上司の承諾さえ得れば対面のトレーニングまで受けられる。  スキルとキャリアに関する情報開示は徹底している。他部署のスキルハイブはもちろん、管理職の空きポジションも明示されているため、社員は進むべき道を自ら決め、リスキリングを繰り返すなどしてキャリア実現に向かう。  スキルハイブの活用やトレーニングの受講は必須ではなく「あくまで個人の自由であり、自己責任である」(人事総務本部長のバスマジェ詩織氏)という。ただし、リスキリングに後ろ向きな社員が社内で活躍し続けることもまた難しい。その緊張感が自律的なリスキリングに向けて社員の背中を押す。  仕組み次第で社員のリスキリングを活発化できることを、ユニリーバの事例は示唆する。

経済 日経ビジネス
2025年05月27日
川崎重工、神戸港でサーモン養殖 LNG船や鉄道車両の技術で育む

川崎重工、神戸港でサーモン養殖 LNG船や鉄道車両の技術で育む

 いけすから網が引き上げられると、脂を乗せて丸々と太ったサーモンが跳ね上がり、日を浴びて銀鱗(ぎんりん)を輝かせた。海上自衛隊向けの潜水艦や大型船舶用エンジンなどを製造する川崎重工業の神戸工場(神戸市)。重厚長大産業の象徴とも言える工場の一角で、奇異にも見える試みが始まった。  川崎重工は4月末、マルハニチロと共同で取り組んできた海面養殖の実証実験で、サーモン850匹を水揚げした。1月に投入した稚魚は900匹で、生存率は94%。一般的に養殖サーモンの生存率は9割とされており、それを上回った。海上でのサーモン養殖はリアス式海岸など自然条件に恵まれた環境で手掛けるのが一般的。だが、川崎重工が取り組んだ場所は、神戸港という都市港湾の岸壁だった。  駆使したのは、同社が長年、重工業で培ってきた技術力だ。養殖システム「MINATOMAE(ミナトマエ)」には、液化天然ガス(LNG)輸送船や鉄道、航空機の製造で磨いてきた流体制御や温度管理といった様々な技術が結集されている。  とはいえ川崎重工はなぜ畑違いの養殖に取り組もうと考えたのか。背景にあったのは、日本の漁業が抱える構造問題だ。水産庁によると、国内の漁業・養殖業の総生産量は1984年をピークに減少が続く。地球温暖化の進行によって魚の生息域が変化し、漁獲高の減少により漁師の生活を圧迫。さらに漁業が盛んなのは地方が中心で、若者の多い都市部においては、漁業という選択肢はほぼないに等しい。そこで都市部での養殖が実現できれば、若者が漁業に就業する機会を提供できるのではないかと考えた。  川崎重工は大型港湾の岸壁など、これまで未活用だった場所に半閉鎖式のいけすを設置し、魚を育成する仕組みを構築している。  いけす内の水流のコントロールや酸素供給は、鉄道車両の空調制御や、ガスタービンの流体解析技術を応用して最適化した。LNG輸送で培った船舶の揺れを制御する技術は、波の影響を抑える構造に生かされている。開発担当者の多くは、元LNG関連など様々なバックグランドを持つ技術者だ。

経済 日経ビジネス
2025年05月27日