「リスキリングは結局のところ、バズワードにすぎない」。最近の日本企業の一部には、こんな白けたムードが漂っている。eラーニングを導入したところで社員は学ばない。高額の講師を雇って研修を実施しても右から左へ聞き流すだけ――。そんな実態に嫌気がさした人事担当者は少なくないだろう。
「手当目的で業務に使わない資格の取得に張り切る若者もいたし、定年前にリスキリングセミナーに行かされて、迷惑そうにするシニアもいた」。食品業界の元人事担当者は苦笑いをしながらこう振り返る。
お仕着せのリスキリング施策では社員は白けるばかり。学びを活発化させるには、人事制度それ自体を見直す必要がある。スキルとキャリアとを連動させ、新たなスキルを獲得した社員に活躍を促し、成果を出せば相応の処遇ができる環境を整える必要があるのだ。
先んじているのは欧米企業だ。終身雇用が一般的だった日本に対し、欧米では人材の流動性が高い。そのためポジションの多くは属人的ではなく、代替可能な形で設計されている。ポジションごとに必要なスキルを明示し、社員が自律的にキャリアを構築していける環境を用意する。そうして優秀な人材をつなぎ止めてきた。
その手法を日本でも展開しているのが英国に本拠を置く消費財メーカー、ユニリーバだ。同社の日本法人は社員の入社時、個人と会社のパーパスを擦り合わせるワークショップを実施する。「この会社で働く意義」を半日かけて考えてもらうのだという。
ユニリーバで働く意義が明確になれば、会社はその実現に向けて社員を後押しできる。「フューチャー・フィット・プラン」というロードマップを作り、社員がパーパスに沿ったキャリアパスを描いていく。
このときに役に立つのが「スキルハイブ」と呼ばれる独自のツールだ。部署ごとに必要となるコアスキルと、担当ごとに必要なスキルとがハチの巣状に記されている。社員はこれを参照し、なりたい姿に近づくために必要なスキルを把握。その習得に必要な学習項目も確認できるため、上司の承諾さえ得れば対面のトレーニングまで受けられる。
スキルとキャリアに関する情報開示は徹底している。他部署のスキルハイブはもちろん、管理職の空きポジションも明示されているため、社員は進むべき道を自ら決め、リスキリングを繰り返すなどしてキャリア実現に向かう。
スキルハイブの活用やトレーニングの受講は必須ではなく「あくまで個人の自由であり、自己責任である」(人事総務本部長のバスマジェ詩織氏)という。ただし、リスキリングに後ろ向きな社員が社内で活躍し続けることもまた難しい。その緊張感が自律的なリスキリングに向けて社員の背中を押す。
仕組み次第で社員のリスキリングを活発化できることを、ユニリーバの事例は示唆する。