キヤノンMJが新規事業創出で成果 共創に重要な2つの“感”

経済 日経トレンディネット 2025年05月29日 01:02
キヤノンMJが新規事業創出で成果 共創に重要な2つの“感”

キヤノンマーケティングジャパンが、新規事業創出で成果を上げ始めている。2024年に新設した新組織で、従来事業にはない新たな事業を創りながら、100億円規模のCVCファンドを通じてスタートアップに投資、事業開発を協業している。5~10年後の次世代の事業の柱をつくる取り組み。当初は思ったように前に進まなかったという専門部署での事業創出を加速するため、重視したポイントとは何だったのか――。

 キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は、AI(人工知能)モデルを活用したインタラクティブな受付ソリューションのPoC(概念実証)を2025年5月に開始した。デジタルサイネージ(電子看板)上でAIが顧客と対話し、受付業務を代替するソリューションだ。

 出資先の1つであるAI model(東京・港)とAIモデルを使った動画モデルをつくり、LLM(大規模言語モデル)のスタートアップ、カサナレ(東京・渋谷)と組んで実現した。

 店舗や施設、観光地などさまざまなシーンでの受付業務を想定しており、24時間稼働が求められる現場での省人化ニーズなどに応える。例えば、道の駅は、トイレに立ち寄る人などで24時間人の流れは止まらない。こうした場所でもAIモデルなら利用者に24時間対応できると想定できる。

 AI modelはAIでモデルやタレントの生成・運用を手がける会社で、マネキンや人物の撮影データから顔や体などをAIで生成する事業を展開する。キヤノンMJはAI modelに24年10月に出資、週1~2回程度、社員を1人先方との業務にアサインして共同ソリューションの展開などを進めてきた。その1つの成果がAIモデルとデジタルサイネージを組み合わせたAIモデルによる受付業務のソリューションだ。

 「クリエイティブ業界には人不足、労働集約型の制作体制や、IP(知的財産)を使いたい中小企業や自治体がコスト面で使えないといったさまざまな課題がある。これを解決するには、AIを活用してその構造自体を変えたり、AIを使って現場の生産性を上げてコストを下げたりすることが必要。こうして表現の自由度を拡張するべきだと考えて、社内でAIを活用したクリエイティブソリューションの構想を立てていた」

 こう話すのはキヤノンMJ、R&B推進本部 BizDevセンターの阿部俊介センター長だ。そんなときにAI modelと出会った。

 「実在の人物やマネキンの撮影と生成AI技術を融合させて新たなクリエイティブを広げていくのがコンセプトの企業だったので、AIモデルを使って一緒にIPビジネスをやりましょうということになった」(阿部氏)

 足元では、AI modelの撮影業務を支援しながら、IPを導入したいがハードルが高いと考える企業向けにAIソリューションを提案してきた。それが形になりつつある。

 キヤノンMJが新たな事業を創出するための「R&B(Research&Business Development)」の専門部署を上げたのは24年1月のこと。会社の中での議論が21年の後半くらいから始まり、準備室という組織ができたのが23年の7月。翌24年1月にR&B推進センターとして始動した。R&B推進本部という名称になったのは25年からで、社長直轄となった。

 その背景をR&B推進本部の石田直也本部長はこう説明する。

 「キヤノンMJはキヤノン製品の販売から始まった。ただ1990年代からITソリューションを組み合わせて価値をどう届けていくかに、少しずつ軸足を移して事業を拡大してきた。象徴的なところでは米Apple(アップル)の総販売店もしながら、いわゆる商社機能も含めて市場を創ってきたという自負を持っている」(石田氏)

 しかし今、事業環境は激変している。労働人口減少や働き方改革、デジタル化の加速、新型コロナウイルス禍などの影響からだ。現在はヘルスケアやプロダクションプリンティングといった専門領域のチャネルも含めて、「コンスーマ(個人)」「エンタープライズ(大企業)」「エリア(中堅・中小企業)」「プロフェッショナル(特定専門分野)」の4つのチャネルで事業を展開しているが、「既存ビジネスのオーガニックな成長はなかなか難しい。成長に向けてどう投資をしていけばいいのか」(石田氏)――。

 そこで立ち上がったのがR&B推進センターだった。食料不足や生態系の破壊、人口減少、少子高齢化といった未来の社会課題からバックキャストで考え、人の視点と産業の視点でこれらを解決する新たな事業を立ち上げる。

 「キヤノンMJの強みは、さまざまアセットとマーケティングの力によって事業をつなげ、新たな価値を生み出せること」(石田氏)

 R&B推進本部は、キャリア採用した人材も含めて40人弱でキヤノンの新規事業創出をけん引する。グローバル・ブレイン(東京・渋谷)と共同運営する「Canon Marketing Japan MIRAI Fund」にもかかわるCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)のチームと事業開発のチームがあり、それぞれが連携しながら事業の創出を狙う。

 CVCの投資領域はWell Being(ウェルビーイング)とBusiness Transformation(ビジネストランスフォーメーション)の2分野。「Life Purpose」や「Emerging Industries」といった6つのビジョンに合致したところに出資する。

 「出資するだけではなく、事業を共創するのが1つの特徴。必要であればAI modelのように、当社の社員を直接先方の業務フローにアサインして事業構築に入り込み、PoCも一緒に実施する。スタートから一緒に事業をつくっていくイメージ。これまで約10社に出資した」(阿部氏)

 「事業開発や事業構想の視点からCVCをうまく使って新しい事業をつくっていくのが我々の組織の特徴。新たな事業を既存の事業部門としっかりつないでいくためのバーチャル組織『クロスファンクショナルチーム(CFT)』も設置している」(石田氏)

 CFTは、R&B推進本部が手がける事業開発と既存事業を橋渡しする役割で、各事業部がやりたいことをR&B推進本部にインプットしてもらっている。「一般的なCVCは事業部門とCVCが直接連携するスキームが中心だが、R&Bでは組織の中にCVCと事業開発チームがあり、互いに連携して飛び地領域の新規事業の創出に取り組んでいる」と石田氏。

 一方で、既存事業の拡大につながるようなスタートアップがあれば、CFTと連携して出資し、事業化に向けて取り組む。「キヤノンMJの持続的な成長に向けて、飛び地領域、既存事業の拡大領域、それぞれの領域でチャレンジしている」(石田氏)

 CVCファンドの出資先の1つ、フィンランドのValpasはIoTを活用したトコジラミ捕獲デバイスなどを開発する会社。東京・渋谷のエアロネクストは産業用ドローンを開発する。社内の新規事業開発プログラムから出てきた事業提案ではあるが、25年2月からベータ版を提供し始めたのが頭痛のセルフケアアプリ「ヘッテッテだ。

 R&B推進本部が進めるのはいずれも既存事業にはない新たな取り組み。24年10月からは社内外の挑戦者と新たな価値創造を目指す「spark.meアクセラレーションプログラム」を開始して、スタートアップ企業とのオープンイノベーションを推進している。

 5~10年でキヤノンMJの次世代の事業の柱をつくることを目指しているが、現在の社会課題は、5年後にはもう当たり前になっている可能性がある。「15年先がどうなっているか、常に新しい社会課題を探索しなくてはいけない。事業の柱ができて良かったという話ではなく、それを持続的な活動にしていく仕組みや制度を整えながら事業を創ることが重要」(石田氏)

 その推進のためキヤノンMJは、さまざまな課題を解決しながら挑んでいる。事業共創のポイントは、2つの“感”にあるようだ。

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