人間とアンドロイド(人間型ロボット)が日常の中で共生し、科学技術との融合で人間自身も進化していく-。大阪・関西万博でこうした未来社会を提示したパビリオン「いのちの未来」のアンドロイドの一部が、京都と大阪、奈良の3府県にまたがる関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)に移設された。譲り受けた京都府は、最新技術が描く未来を多くの人に体感してもらおうと、今春ごろの一般公開を予定している。研究グループは万博での経験をもとに、共生に向けた課題解決や1人で複数のアバター(分身)を操作できる技術開発を進める方針で、万博のレガシー(遺産)がけいはんなという新天地でどのように発展していくかが注目される。
160を超える研究機関や大学施設などが集積し、西日本を代表するサイエンスシティーのけいはんな学研都市。その一角にあり、京都府などが運営する「けいはんなオープンイノベーションセンター(KICK、同府木津川市など)」に昨年10月半ば、閉幕した万博会場からアンドロイドたちが次々と運び込まれた。
「いのちの未来」でプロデューサーを務めたロボット工学の第一人者、石黒浩・大阪大教授は学研都市の中心企業「国際電気通信基礎技術研究所(ATR、同府精華町)」の特別研究所客員所長でもあり、パビリオンでは同社がアンドロイドの運用を担当。閉幕後に「ぜひ引き取って活用してほしい」という石黒氏側の要望と、学研都市を「イノベーション(技術革新)を生み出す技術の集積拠点としてさらに強化したい」という府側の思いが一致した。府は展示されていたアンドロイドやアバター約30体のうち、日本国際博覧会協会が所有していた7体の閉幕後の引き継ぎ先を決める公募に手を挙げ、無償で譲り受けることになった。
7体のうち3体は、パビリオンの最後のゾーンで展示され、千年後の世界に登場したアンドロイドだ。テクノロジーなどとの融合を果たした人類は肉体にとらわれることなく、魂も含めて自由に空間に浮かぶ様子が表現され、来場者からも大きな反響があった。府とATRはアンドロイドの再展示や万博でのパビリオン体験の再演に向けて準備を進めており、今春をめどに一般公開する予定だ。
府文化学術研究都市推進課の芝田雅貴課長は「万博のレガシーを引き継ぎ、より多くの人に人間とロボットが共生する社会について考えてもらう機会となれば」と意気込んでいる。
ATRには、万博閉幕に合わせて新たに石黒氏が所長を務める「いのちの未来研究所」が設立された。アンドロイドの再展示だけにとどまらず、パビリオンでの運用で得たさまざまな経験や実証実験の結果を研究に生かすためだ。
石黒氏らの研究グループが目指すのは、「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」。国内では人口減少や高齢化、ライフスタイルの多様化などを背景に、場所や時間、体力などにとらわれない働き方や生活様式の必要性が増している。「2050年までに人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会」の実現を目標に掲げ、その第1段階として1人で10体以上のアバターを同時に操作できる技術の構築を進めている。
万博開催中のパビリオンでは、遠隔操作ができるロボットアバターや2次元アバターを活用して、大阪や東京、長崎などから高齢者やコミュニケーションに難しさを抱える障害者らが、来場者に声掛けをするなどの案内役を務める大規模な実証実験を展開。また、来場者へのアンケートを通じて、アバターの印象や受け入れやすさなどに関する調査も実施した。研究グループは今後、社会実装に向けて、受け入れやすさを高めるための改良などを進めていくという。
《未来は、待つものではなく、創り出すもの。「いのちの未来」パビリオンが紡いだ物語は、京都府とATRに引き継がれ、アンドロイドと人がともに歩む、新たな時代へと進んでいく。けいはんなから、世界へ。「いのちの未来」は、ここから、また動き出す。》
万博閉幕後、パビリオンの公式Xはアンドロイド、アバターと人間の共生社会の実現に向け、けいはんなという「新天地」からのリスタートを力強く宣言した。
石黒氏が手がけた「いのちの未来」は、各界を代表する8人のプロデューサーがそれぞれの視点で大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を表現する「シグネチャーパビリオン」の一つだ。大屋根リングの中心部に設けられ、地面からせり上がるような黒を基調とした外観で、外壁や周囲には「いのち」の象徴である水を流しゆらぎや流れを演出した。
内部では人間や猿、植物などを模した多彩なアンドロイドやロボット、アバターがスムーズな動きや話し方で来場者を出迎え、案内するなどした。3つの展示ゾーンでは人間がアンドロイドと共生する50年後の近未来を舞台にした家族のドラマや、テクノロジーとの融合でさまざまな制約から解放された千年後の人類の姿を表現。来場者にロボットと共生する社会や、技術革新により多様化するいのちのあり方について問題提起した。
直接来場することができない人に向けては、ロボットのアバターがパビリオン内をめぐり、ロボットの視点で見た映像や音声をライブ配信する「アバター・ライドシェアツアー」などを開催し、教育現場などで活用された。(杉侑里香)
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「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、大阪市此花区の人工島・夢洲(ゆめしま)で184日間にわたって開かれた2025年大阪・関西万博。158の国・地域が参加し、趣向を凝らした展示が来場者の人気を集めた。昨年10月の閉幕に伴い、近畿の各府県や自治体が各パビリオンから引き継いだ品々や万博を機に広がった交流といったレガシー(遺産)を紹介する。