アルテミス計画の宇宙船「オリオン」が日本時間2日、米フロリダ州から打ち上げられた。有人月周回を目指す意義は、約半世紀ぶりに人が月へ近づくことよりも、その先の時代への道筋を具体化する点にある。今回の飛行は、月面で継続的に活動する体制を築き、火星探査へつなげる構想の入り口であり、国際宇宙ステーションよりも遠い月との往復で必要な最新の技術を初めて有人で確かめる。
背景にあるのは、月面をめぐる主導権争いだ。米国は、日本を含む61カ国が署名する「アルテミス合意」で平和利用や透明性、相互運用性の原則を広げ、月周辺の活動ルールづくりを主導しようとしている。一方、中国も2030年までの有人月面着陸を掲げ、新型ロケットや有人宇宙船、月着陸船の開発を進める。
米国はこれまで、月周回軌道上の有人拠点「ゲートウェイ」の建設に注力してきたが、このほど月面基地建設を優先し、関連するインフラ整備に軸足を移す方針を打ち出した。米中の主導権争いを意識した側面があり、今回の飛行の重みはさらに増した。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)で国際宇宙探査事業を担当する川崎一義理事補佐は、「米国が月面基地づくりを明確に掲げた中で、アポロ以来の月周回ミッションそのものが挑戦であり、放射線環境や生命維持系を本番条件で確かめる意味は大きい」と話す。
今後のアルテミス計画で、日本は宇宙飛行士が普段着で生活しながら移動できる大型の月面車「有人与圧ローバー」を提供する代わりに、日本人宇宙飛行士2人の月面着陸の機会を得る。月面重視の流れが強まるほど、月面基地が建設中である初期段階で人の移動と生活を支えるローバーの重要性は増す。今回の有人月周回は、国際的な月探査の将来だけでなく、日本の宇宙開発戦略に与える影響も大きい。(伊藤壽一郎)