ココイチも参入した「夜パフェ専門店」 壱番屋はなぜ“甘い夜”に乗り出したのか

経済 産経新聞 2026年02月02日 14:00
ココイチも参入した「夜パフェ専門店」 壱番屋はなぜ“甘い夜”に乗り出したのか

「カレーハウス CoCo 壱番屋」などを展開する壱番屋が、スイーツ事業に参入した。2030年に向け、「食のエンターテインメント企業」の実現を掲げる同社では、2020年からM&Aを通じた事業領域の拡大を進めている。これまでは、ジンギスカンやラーメン、モツ鍋といった食事領域だったが、2025年12月に夜パフェ専門店を運営するGAKU(ガク、札幌市)を完全子会社化した。

札幌発祥の夜パフェは「シメパフェ」とも呼ばれ、お酒を飲んだ後にパフェを食べる文化を指す。札幌発の観光Webマガジンによると、2014年頃に「シメパフェ」という言葉が誕生し、2015年9月には市内の7つの飲食店が集まり「札幌パフェ推進委員会」を設立。「札幌シメパフェ」の文化を広めていったという。

ガクは2015年8月、「夜パフェ専門店 Parfaiteria PaL」(パフェテリア パル)を札幌に開業しており、夜パフェ発祥の店とも言われる。2017年には「Parfaiteria beL(パフェテリア ベル)」として東京にも進出。アート作品のようなパフェがSNS映えの文化ともマッチして、行列ができる人気店となった。現在は、全国に9つの夜パフェ専門店を展開する。

壱番屋にとってスイーツは未開拓の領域だが、どのように両社のシナジーを生み、事業成長につなげていくのか。執行役員の平尾康能氏に「スイーツ事業参入の狙いと勝ち筋」を聞いた。

収益のほとんどをカレー事業が占める壱番屋だが、2019年に浜島俊哉前社長から葛原守社長へ交代したことを機に、M&Aを通じて事業領域の拡大に取り組んでいる。

ジンギスカンの「成吉思汗 大黒屋」を運営する大黒商事を2020年12月に子会社化したことを皮切りに、2023年3月に「麺屋たけ井」を運営する竹井、同年12月に「博多もつ鍋 前田屋」を運営するLFD JAPAN、2025年1月に「極濃豚骨 らーめん小僧」などを運営するKOZOU(コゾウ)、そして同年12月にガクを買収して事業ポートフォリオを広げてきた。

「当社のM&Aの方針として、テークアウト専門店ではなく、店内飲食サービスを伴うこと、お酒メインの居酒屋やバーではなく、『これを食べたい』として来店する食事メニューが中心であることを重視しています。それが『食のエンターテインメント企業』に欠かせない要素であり、当社の強みを生かせると考えるためです」

この方針に加え、これまでの買収企業は、全国で10数店舗ほどとそれほど規模が大きくない企業が多い。こうした企業は、さらなる拡大に向けた次の一手として大手との提携を視野に入れていることがあり、互いの狙いが一致しやすい。全国に9店舗を展開するガクにも、まさに同様の狙いがあった。

とはいえ、食事領域に強みを持つ同社が、なぜスイーツ事業に参入したのか。

「当社では、国内の魅力ある飲食事業であれば、どんどんグループインしていただきたいと思っています。当初からスイーツ事業に参入したい意図があったわけではなく、ガクとのご縁があり子会社化に至りました」

ガクの創業者である橋本学氏のInstagramには、M&Aの経緯や思いがつづられている。抜粋すると、「年商が10億円を超えて数年が経過し、次のステップとして国内での店舗拡大や海外展開に向けて土台作りを進めてきた。しかし、独力での限界を感じ、大手との資本提携を模索していたところ、仲介会社を通じて壱番屋から声がかかった。そこで互いの思いが一致して、新たなチャレンジをする運びになった」という。

実は、橋本氏は飲食業界の恩師を通じて壱番屋の経営哲学を模範にしており、「運命的な出会い」とも書かれていた。

ガクが運営する夜パフェ専門店は「パフェテリア ベル」「ななかま堂」などいくつかのブランドがあるが、提供するパフェは、いずれも単価2000~3000円前後の高価格帯だ。

筆者は、以前にパフェテリア ベルの夜パフェを食べたことがあるが、アートのような見た目やとにかくサッパリとした後味が印象的だった。パフェのアイスやパーツは全て手作りにこだわり、オーダーが入ってからベストの状態で組み立てているという。

橋本氏自身が、「お酒を飲んだ後、ホイップした生クリームやコーンフレークたっぷりのパフェは食べたくない」として、サッパリとしたジェラートや生のフルーツなどを使って、甘さ控えめの重たくないパフェに仕上げている。最もおいしい旬の食材を使っており、季節ごとに6種類前後を提供している。

近年はIPとのコラボも実施しており、2025年9月には劇場版『チェンソーマン レゼ篇』と、2026年1月には北海道を応援する「初音ミク」の派生キャラクター「雪ミク」とのコラボパフェを発売している。

営業時間は、週末や祝日を除いて午後5時、または午後6時開店で最大深夜1時までとなる。最も混み合うのは午後8時頃からで、口コミを見ると都内の店舗では、午後10時を過ぎても待機列が発生するそうだ。客層は若年女性やカップルが多く、「飲んだ後のシメに訪れた」という口コミがチラホラ見られた。価格に関しては「高い」という声が多いものの、体験には満足している人が多い印象だった。

壱番屋では、数ある夜パフェ専門店の中でも、ガクが提供するパフェの造形美や手作りの味わい、さらに接客面も含めた総合的なサービスに価値や成長性を感じ、自社の企業価値向上につながると判断したそうだ。

夜パフェのトレンドを振り返ってみると、2015年に札幌で発祥した後、2017年頃から東京でも専門店が増え始め、その後は全国的に広がっている。

例えば、2020年から展開する「21時にアイス」は全国に数十店舗、2021年に誕生した「アイスは別腹」は10店舗前後と徐々に店舗が増えている。いずれもテークアウト業態で、価格は600~800円が中心。閉店した店舗も複数あり順風満帆とは言い難いものの、少し贅沢(ぜいたく)感のあるアイスを提供して人気を得ているようだ。

21時にアイスでは、近年コラボ展開も多く、アニメ映画『Chao』や台湾の老舗ルームフレグランスブランド「明星花露水(ミンシン・ファールースェ)」などとのコラボ商品も登場した。2025年12月にはセブン-イレブンともコラボし、一部地域のセブンでコラボ商品を発売している。

また、2021年春から展開する夜パフェ専門店「Parfait Bar &VIGO(パフェバー アンドビーゴ)」は、全9店舗に増えている(2月開業予定の2店舗を含む)。同ブランドを運営するCARTON(カートン、千葉県柏市)の櫻井航社長によれば、今後1年以内に約20店舗、2029年までには100店舗まで拡大を見据えているそうだ。

「当社は、もともと千葉の流山おおたかの森でバルを営業していたのですが、店内が密になりやすい業態で、コロナ禍でビストロに業態転換したんです。そこでメニューの一つとして提供していたパフェが注目され、それを目当てに来店する方が増加したため、2021年春に夜パフェ専門店に業態転換しました」(櫻井社長)

提供するのは大人向けのパフェで、旬の食材を使って、スタイリッシュな見た目に仕上げている。アルコールとのペアリングも楽しめるよう設計しており、お酒と一緒に注文する人も多い。毎月、新商品のパフェを発売している。

同社では、千葉県内の流山市と柏市の2店舗以外はフランチャイズ展開となるが、セントラルキッチンを設けて、そこで手作りしたパーツを全店に配送することで品質を維持しているそうだ。

「主な来店者層は、25~45歳の女性です。平日は午後5時から、週末は日中から営業する店舗が多いのですが、最も混み合うのは午後8~10時頃ですね。1軒目で食事を楽しんだ後に来店されるケースが多く、客単価はパフェとドリンクで3000円前後です」(櫻井社長)

週末はどの店も行列必至だといい、例えば、蔵前店は1日に約10回転するという。混雑時は60~90分の時間制限を設けている。

2015年に札幌から始まった「夜パフェ文化」は、全国的に定着していくのだろうか。

櫻井社長は「飲酒や食事の後に甘いものを食べる習慣はブーム以前からずっとあり、一過性の流行りでは終わらないのではないか」と話す。

「もともとあった『食後のデザート』や『2軒目のバー』という文化が組み合わさったのが、イートインスタイルの夜パフェ専門店だと認識しています。『夜パフェ』というとブームのように捉えられがちですが、もともとある文化が広がっている感じなのかなと。夜パフェが新しい外食文化として根付きつつあるような感覚はあります」(櫻井社長)

櫻井社長の視点に付け加えると、Z世代を中心とした「夜カフェ」の広がりも関連しているかもしれない。SHIBUYA109 lab.のトレンド調査によると、2023年のカフェ・グルメ部門の3位に「夜カフェ」がランクイン。コロナ禍が収束し、夜遅くまで営業しているカフェが増え、「居酒屋よりも落ち着いて過ごせる」「お酒を飲まない人も楽しめる」などの理由で人気を集めているそうだ。

そして、その背景には「若者のアルコール離れ」もありそうだ。マーケティング・リサーチ事業などを展開する日本インフォメーションが、20~26歳を対象に実施した調査によると、「お酒が好きではない」と回答したのは約41%で、女性に限ると約46%だった。「飲めるけれど飲まない」と回答した人は約28%で、こちらも女性では約33%に上昇する。

「飲めない」「飲まない」Z世代女性が増加しており、彼女たちが夜の集いに夜カフェや夜パフェを選んでいる可能性はあるだろう。夜パフェ専門店がさらに広がれば、2軒目はパフェでシメるという人がますます増えるかもしれない。

著者プロフィール:小林香織

1981年生まれ。フリーランスライター・PRとして、「ビジネストレンド」「国内外のイノベーション」「海外文化」を追う。一般社団法人 日本デジタルライターズ協会会員。エンタメ業界で約10年の勤務後、自由なライフスタイルに憧れ、2016年にOLからフリーライターへ転身。その後、東南アジアへの短期移住や2020年~約2年間の北欧移住(デンマーク・フィンランド)を経験。現地でもイノベーション、文化、教育を取材・執筆する。2022年3月~は東京拠点。

(ITmediaビジネスオンライン)

関連記事

記事をシェアする