世に出なかったかもしれない作品だ。
角田光代さんの最新作『明日、あたらしい歌をうたう』(水鈴社)は、カリスマ的な人気を誇ったミュージシャンが父だと聞かされて育った少年と、その母の物語。最後と決めていた連載小説を書き終えた後、「短期リハビリのような気持ちで書いた」のは、自身が救われてきた音楽にまつわる小説だった。
角田さんは2022~23年、「方舟を燃やす」を週刊誌に連載。後に吉川英治文学賞を受賞するなど評価を得た。ところが連載中、「うまくいっていない感覚があった」と言う。「プロット通りに進まないのに、締め切りがあるから書かなければいけない。連載がきつくなってしまいました」