夏の猛暑でも品質が落ちにくい新たなコメの品種「福島59号」を、福島県農業総合センター(郡山市)が開発した。温暖化の影響でコメの品質低下が問題となる中、県オリジナル品種としては初の「高温耐性米」で、約15年にわたる試行錯誤を重ねてたどり着いた。県は将来の主力品種の一つとして2028年度から本格栽培を目指す。
「品種開発は本当に時間のかかる仕事です」。開発に携わった同センター作物園芸部品種開発科の小林恭子・主任研究員はそう語る。コメの品種開発は異なる品種や品種になる前段階の候補である「系統」を人工交配するところから始まる。「父親」と「母親」を決め、温室で雄しべと雌しべを掛け合わせる。こうした人工交配は毎年7~8月に50程度の組み合わせで行われるという。その後、栽培と選抜を繰り返し、無数の候補から優れた性質を持つ系統を絞り込んでいく。
福島59号の場合、長野県で開発された「信交544号」と県オリジナルの「福島34号」の二つの系統を交配することから始まった。最初に得られた種は15粒だった。その後数年は繰り返し栽培して世代を進め、種子を増やす。福島59号の育成では交配から3年目に約2400個体を育てた。東北地域などではコメは基本的に年1回しか栽培できないため、世代を進めるだけでも年数がかかる。
その後、選抜が始まる。個体はそれぞれ遺伝情報が微妙に異なるため、同じ両親を持つ個体でも選抜が必要になる。14年からは、倒れにくさに関わる稲の太さや硬さ、収穫量につながる穂の重さなどを一本一本確かめながら有望株を選んだ。体を物差しに地面から穂の付け根までの長さを測ったり、持った時のずっしり感を手で感じたりするこの作業は経験が必要になるという。福島59号の場合ここで49個体が選ばれた。
それらはようやく「系統」と呼ばれ、病気や低温への耐性などさまざまな試験を行う。11系統に絞られたのち、他の組み合わせの両親を持つ系統と相対評価で比較する。こうして18年に「福島59号」という、産地などを識別するための「地方番号」がつけられた。
ここまでたどり着くのは年1~3系統。これまで福島県で地方番号は87号まで付いている。しかし、地方番号が付いたものが必ずデビューできるわけではない。19年からはさらに厳しく収量、食味などを何年もかけて調べ、栽培試験を実施。既存品種より優れていると認められなければ、奨励品種にはならない。
小林さんは「どんなに良い系統でも、地域によってはうまく育たないこともある。会津や浜通りでも問題なく栽培できるか確認する必要がある」と説明する。
福島59号の最大の特徴は、二重に高温に強いことだ。
出穂期は主力品種コシヒカリより約1週間遅く、稲穂が成長する登熟期の高温を避けやすい。そのため、19~22年の調査では、コシヒカリは白く濁った未熟な粒が11%発生したのに対し、福島59号では2・4%にとどまった。
さらに高温下にも強い。温室内での調査で、出穂期に約30度に設定された試験では、白未熟粒の割合がコシヒカリで16%だったのに対し、福島59号は8%と半分程度に抑えられた。
近年、夏の猛暑でコシヒカリの品質低下が各地で問題になっている。白未熟粒が増えると等級が下がり、生産者の収入にも影響する。「ここ数年の暑さは米作りにとって大きな課題。品種の力で生産者を支えられれば」と小林さんは語る。
味もコシヒカリとほぼ同等と評価されている。県農業総合センターでは、選抜された約40人の職員が食べ比べる官能試験を実施し、味や粘り、香りなどを総合的に評価した。
開発には延べ20人以上が携わり、担当者は駅伝のように引き継がれてきたという。どの職員よりも長い関わりという小林さんは「長い年月をかけて育てた系統が、品種として世に出るところまで見届けられたのは感慨深い」と振り返る。
農家が栽培できるようになるまでにはさらに時間がかかる。多くの農家に配れるよう2年間かけて種もみを増やす。28年度には県内約500ヘクタールで栽培する見通しだ。
県は26年度、一般に流通させる名前を公募する。温暖化で米作りが変わりつつある中、福島59号は新たな切り札となる可能性を秘めている。小林さんは「暑さに悩む生産者の助けになり、福島の米作りを支える品種になってほしい」と期待を込めた。【松本光樹】