日本の旗艦スーパーコンピューター「富岳」(神戸市)の本格稼働から5年が過ぎた。銀河の形成過程から神経細胞の動きまで幅広い分野で、複雑な現象を大規模かつ精緻にシミュレーションし、成果を積み重ねてきた。一方で限界も指摘され、開発中の後継機「富岳NEXT(ネクスト、仮称)」では、人工知能(AI)とシミュレーションの融合を通じ、科学研究の新たな地平を切り開こうとしている。
電気通信大などは昨年11月、富岳でマウスの大脳皮質をシミュレーションした結果を発表した。約1000万のニューロン(神経細胞)と、それらをつなぐ260億のシナプス(神経接続部)を再現。類を見ない高精度なシミュレーションを実現した。
コンピューター上に脳を再現できれば、生体では難しい実験を仮想的に行うことが可能となり、脳の機能や病気の解明につながる。電通大の山﨑匡(ただし)教授は、スパコンで神経科学を扱う上で転換点になる成果だと指摘。「スパコンの応用分野は天文や気象が代表的だが、神経科学がそこに加わる第一歩を踏み出せた」と話す。
天文学の分野では、東京大の藤井通子(みちこ)教授らの研究チームが世界で初めて、大規模シミュレーションにAIを組み合わせた成果を発表した。富岳で作ったデータで学習したAIで、年老いた恒星が最後に起こす超新星爆発直後の急激な変化を予測。その結果を取り入れて、他のスパコンで銀河の形成過程をシミュレーションしたところ、全体の計算時間は従来手法の約4分の1に短縮できたという。銀河全体のシミュレーションを富岳で行う研究も進めている。