麻酔医不在、薄めた麻酔薬投与も2カ月以上知らせず 市立川崎病院、手術患者の権利どこに

政治 産経新聞 2026年04月09日 12:36
麻酔医不在、薄めた麻酔薬投与も2カ月以上知らせず 市立川崎病院、手術患者の権利どこに

川崎市病院局は先月27日、記者会見し、市立川崎病院の男性麻酔科医(28)が麻酔薬を持ち出して自分に投与したなどとして、この麻酔科医を懲戒免職にしたことを明らかにした。その対応の過程で浮き彫りになったのは、手術中に麻酔科医が不在となったり、薄めた麻酔薬を投与しても、患者には知らせない同病院の姿勢だった。同病院は今月に入り、対応を改めたが、福田紀彦市長は病院長を厳重注意し、ガバナンスの再構築を指示した。

「誠に遺憾であり、私から病院事業管理者を通じて病院長に対しても、今後このようなことを繰り返さないよう、厳重注意をいたしました」。7日の定例会見で同病院の対応について問われた福田市長はその場では回答を保留。同日夕、コメントを発表した。

事件が最初に起きたのは昨年12月1日。麻酔科医は40代女性の手術を担当した際、手術中に手術室から麻酔薬を持ち出し、自己使用した。麻酔科医がいないことに看護師が気づき、別の看護師が探しに行き、別室でぐったりとしている麻酔科医を発見した。

麻酔科医は救急科に搬送され、別の麻酔科医が手術室に向かったが、少なくとも30分以上、麻酔科医不在のまま手術が行われた。

麻酔科医は不眠症と診断され、1月5日に復職し、その2日後に70代女性の手術に従事。その際、注射器に入った20ミリリットルの麻酔薬から5ミリリットルを別の注射器に抜き取り、発覚を防ぐため、もとの注射器に生理食塩水5ミリリットルを注入した。

抜き取った麻酔薬を使うことはなかったが、手術では患者に生理食塩水で希釈された麻酔薬8ミリリットルが患者に投与された。

麻酔科医は翌8日も同様の手口で麻酔薬5ミリリットルを盗もうとしたが、引き出しに隠していた注射器を看護師が発見し、事件が発覚。市は3月下旬、川崎署に窃盗容疑で被害届を提出した。

麻酔科医が懲戒免職になったことに異論はないが、問題なのは病院の対応だ。

同病院はホームページで患者には「治療について知る権利を持ち、わかりやすく説明を受け、希望や意見を述べる権利があります」「ご自身が受ける医療を自らの意思で選択あるいは拒否する権利があります」などと謳っている。

だが、30分以上麻酔科医不在で手術が行われたことや、生理食塩水で薄められた麻酔薬が使用されたことを「道義的な問題は別にして、人体への影響はない」などとし、当該患者に説明、謝罪はしていなかった。患者はどういう状況で手術が行われたかを知らされないまま、退院していた。

先月行われた会見の席上、その対応に疑問の声が出たことなどから、同局は今月に入り、患者2人に電話連絡し、説明、謝罪の機会を設定したという。

だが、福田市長は「本事案を把握した時点で、謝罪すべきであった」と、市民目線からかけ離れた対応を断罪。昨年12月に麻酔医が手術を抜け出し麻酔薬を使用した際に処分しなかったことも「病院の判断は職員側の事情に偏っており、患者側の安全が考慮されておらず、深く反省すべきもの」と指摘した。

失われた信頼の回復に向けては、病院運営にいかに市民感覚を取り込むかがカギになりそうだ。今後の市の対応が注目される。(橋本謙太郎)

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