丹下建築の「船の体育館」解体に着手 再活用の協議応じず 香川

社会 毎日新聞 2026年04月10日 20:14
丹下建築の「船の体育館」解体に着手 再活用の協議応じず 香川

 丹下健三が設計を手がけた日本最初期のつり天井構造の建物で、和船のような外観から「船の体育館」と親しまれてきた旧香川県立体育館(高松市)の解体工事に、県が10日、着手した。地震時に倒壊するおそれを理由としているが、民間資金での耐震改修・再生活用を提案している有志団体との協議には応じないまま。団体側は、解体にかかる公金支出の差し止めを求めて提訴し、高松地裁で係争中だ。

 この日朝、解体工事業者らが作業を始めた。チェーンソーや重機を使い、敷地周縁部の植栽を1本ずつ撤去した。週明けからは建物脇の池にある石組みを撤去し、敷地外で一時保管するという。

 ゴールデンウイークを挟んで5月ごろから内装を解体、9月ごろから屋根や外壁などの建物本体に進み、2027年4月中ごろから基礎解体やくいの引き抜きを行って、同年9月17日までに工事を終えるとしている。

 現地を訪れた高松市の自営業、長町君枝さん(43)は、高校1年まで近所に住んでいたという。「(耐震性や活用をめぐる)議論が十分にされていないという印象。『アート県』として解体でいいのか、一市民として疑問がある」と話した。

 県は3月20日、解体工事について近隣住民向けの説明会を開いたが、アスベストの飛散リスクや工事の安全性への不安などを払拭(ふっしょく)できず、当初3月中に予定していた解体工事着手を遅らせた。

 4月7日には、近隣住民有志が再度の説明会開催を求める要望書を県に提出。しかし、県は同日「今回のくい引き抜き工法では、周辺地盤への影響は生じにくい」などとする文書を周辺住民にポスティングし、解体着工を通知した。

 要望書を提出した近隣住民の一人は「本当に地震で倒壊するのなら解体も仕方ないが、県の説明にはまったく納得できない。逆に、解体工事による地盤への影響が心配だ」と話した。

 一方、地元建築家や経営戦略コンサルタントらでつくる「旧香川県立体育館再生委員会」(長田慶太委員長)は25年11月、「(県が解体の根拠としている)12年の耐震診断でも大きな危険は示されていない」「合理性のある代替案が検討されていない」などとして、契約額8億4700万円の解体工事費などの公金支出差し止めを求めて高松地裁に提訴した。

 26年1月には、耐震性能について改めて鑑定を実施して結果が出るまでの間、建物の現状を維持するよう証拠保全を申し立てた。

 長田委員長は「耐震性について訴訟でも(県の判断が適切でないという)専門家や専門機関の見解を提出している中でのことで、解体着工を強行する県の姿勢は、裁判をも軽視するものだ。再生委として、保存活用に向けての活動を続けていく」と話した。

 旧香川県立体育館は、1964年完成。ケーブルで屋根をつり下げるつり屋根構造で柱のない大空間を実現している。タイプは異なるが、同年に完成した同じく丹下建築の代々木競技場(東京都渋谷区)=国重要文化財=などと共に、日本最初期のつり屋根構造の建造物で、将来の重文指定候補とも言われる。

 2014年に耐震改修工事の入札が不調に終わり閉館。21年には県教委が「サウンディング型市場調査」で民間事業者から活用・改修案を集めたが、県の財政支援なしでは持続的な運営が難しいとして採用には至らなかった。県と県教委は23年に「苦渋の決断」などとして解体方針を表明。25年3月には解体工事費約10億円を盛り込んだ予算案が県議会で可決された。

 これを受けて同年7月に再生委が、民間資金で土地・建物を取得して耐震改修後にホテルなどとして活用する案を発表し、県に協議を求めたが、県は応じなかった。同年8月に解体工事の入札を公告し、12月に合田工務店(高松市)と請負契約を締結した。【森田真潮】

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