外国人を防災担い手に 「多文化」強化で弱者から転換 自治体支援に限界

社会 産経新聞 2026年04月11日 19:08
外国人を防災担い手に 「多文化」強化で弱者から転換 自治体支援に限界

国内に住む外国人やインバウンド(訪日客)が増加する中、言語の壁や習慣の違いを踏まえた防災のあり方が問われている。平成28年の熊本地震を含め、過去の災害では防災用語を理解できず困惑するケースが多発。被災外国人を支援する自治体も規模によってマンパワーや財政に限界がある。専門家は、人手不足を背景にニーズが高まる外国人を「災害弱者」ではなく「防災の担い手」と位置付け、ともに次の災害に備える重要性を訴える。

7年の阪神大震災では約170人の外国人が犠牲となった。また義援金の配布予定や仮設住宅の入居募集といった情報がほとんど日本語だけで発信されたため、避難した外国人に十分な情報が行き渡らなかった。こうした教訓を機に、災害時の外国人を支援する取り組みが進んだ。

あれから30年以上が経過し、外国人を巡る状況は一変。深刻な人手不足から受け入れが進むものの、災害時に弱者となりやすい状況は大きく変わっていない。

外国人の地域防災に詳しい明星大の菊池哲佳(あきよし)准教授(災害社会学)は、背景に言葉と文化の違いがあると指摘する。「津波という言葉を知っていても、どれだけ危険か理解できていないケースがある」と菊池氏。そもそも災害に不慣れであったり、避難や防災の知識がなかったりする外国人は珍しくなく、ただ日本語を翻訳するだけでは適切な行動が取れない場合もある。

また避難生活が長期化する場合、行政手続きに通訳を付けるなど自治体の関与も重要になるが、地域差もあるようだ。

大規模災害時に外国人支援の拠点となる「災害多言語支援センター」。災害時に臨時に立ち上がる組織で、自治体の要請に応じて避難所に多言語の通訳を派遣するほか、防災情報の翻訳や平易な日本語による災害情報の提供などを行う。

一方、総務省の令和6年の調査では、47都道府県と全国1741市区町村のうち、同センターを災害時に立ち上げる仕組みなど円滑な体制を整えていると答えたのは1割以下の163自治体。人口規模が小さい自治体ほど取り組みが遅れている傾向も分かった。

菊池氏は「小規模な自治体では、対応が必要だと分かっていても人的資源が限られ、さらに予算がないケースがある」と分析。「国が人材育成や財政面で支援していくことが必要だ」と訴える。

南海トラフ巨大地震や首都直下地震をはじめ、甚大な災害はいつどこで起きるか予想できない。

そうした中、菊池氏は「多文化防災」の強化を提言する。増加する外国人を災害弱者としてではなく、地域防災の担い手として位置付け、共生を図っていく考えだ。

菊池氏によると、地域の消防団に加入する外国人は増えている。また言葉や文化の違い、宗教上のタブーといった課題は、日本に住む外国人だからこそ理解できる問題でもある。菊池氏は「災害時に外国人を助けることは大切だが、どうやって助け合えるかという視点を忘れてはならない。平時から関係を築けるかが問われている」と力を込めた。

当事者も動く。10年前の熊本地震での被災を機に、外国人のための防災を考える団体「KEEP(キープ)」を留学生仲間と立ち上げた英国出身の熊本大特任助教、アンドリュー・ミッチェルさん(41)。「母国で災害の訓練を受けたことがない外国人は多く、『自分には関係ない』と考えがち」。外国人の防災意識を高めようと自らの経験を伝える。

留学生時代の平成28年4月14日夜、熊本市の自宅アパートで激しい揺れに見舞われた。恐怖を感じ、ベッドのマットレスをかぶって頭を守った。2日後の「本震」では、隣室の日本人学生と一緒に熊本大に避難。体育館は満員で入れず、屋外で朝を待った。

外国人が情報を受け取る難しさを痛感した。日本語の日常会話はできたが「どこに逃げればいいか分からず、避難所という言葉も知らなかった」。インターネットでは「近くの橋が崩れた」との噂も流れていたが、「どうすれば正確な情報が得られるのかと不安だった」と振り返る。

団体設立からまもなく10年。SNSによる発信のほか、自治体や防災団体のイベントで講師を務める機会も多い。留学生や技能実習生には、モバイルバッテリーを持ち歩くなどの日ごろの備えを訴え、地域の防災訓練への参加も促す。

日本に住む外国人は400万人を突破し、国籍も多様化。ミッチェルさんは、ジェスチャーなどで助け合える関係の構築の重要性に触れながら「備えることで自分や家族、友達、同僚の命を守り、コミュニティーを手伝うこともできる」と強調した。(吉田智香、堀口明里)

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