あけみちゃん基金60年 一通の投書から〝善意の輪〟「貧しいがゆえに死なねばならぬか」

科学・医療 産経新聞 2026年01月05日 18:00
あけみちゃん基金60年 一通の投書から〝善意の輪〟「貧しいがゆえに死なねばならぬか」

国内外の心臓病の子供たちを救う「あけみちゃん基金」(産経新聞厚生文化事業団運営)が今年6月に、設立60年を迎える。命を未来につなぐ〝善意の輪〟は今も広がり続け、基金の適用を受けた子供は国内外で延べ600人を超えた。基金の歴史を振り返ると、病と闘う子供たちに寄り添い続けた歴史が見えてくる。

■届いた小さな声

基金設立のきっかけは産経新聞に送られてきた1通の投書だった。「心室中隔欠損症」などを患う鹿児島県の伊瀬知明美ちゃん=当時(5)=が手術費50万円を支払えず、死を待つしかない状況にある-と記されていた。

投書を基に、記者が明美ちゃんの置かれた苦境を取材。昭和41年6月7日付の産経新聞に「貧しいがゆえに死なねばならぬか」とする記事が掲載されると、大きな反響を呼んだ。

数日で手術費を超える善意が寄せられ、41年6月15日に基金が設立された。明美ちゃんは基金適用の第1号として東京女子医大付属日本心臓血圧研究所で手術を受けた。

■進んだ対策

記事掲載を機に、社会では「心臓病の子供を救おう」との機運が高まった。

当時、病気の子供の医療費を行政が負担する育成医療の制度は存在したものの予算は限られ、必要な治療にたどり着けず命を落とす心臓病の子供は少なくなかった。

政府は心臓病の子供に対する育成医療の予算増額を打ち出し、心臓病対策は大きく前進した。小児慢性特定疾患の事業が始まる49年ごろには、先天性心疾患の子供の医療費をカバーできる体制ができていった。

■国外の支援も

基金も活動の幅を広げていく。

国内の心臓病の子供のほか、海外の子供にも適用を拡大した。59年には川崎病の後遺症による心臓障害に苦しむ子供も適用範囲とし、61年には臓器移植でしか延命できない子供への支援も行われた。

平成27年度からは、先天性の心臓病治療の発展に向け、国外で医療支援にも乗り出した。

大学病院などの協力の下、ミャンマーへ医療団を派遣した。手術やカテーテル治療を担いつつ医療技術を現地医師らに伝えてきた。活動は新型コロナウイルス禍などの影響で休止したが、医療団がミャンマーで治療した子供は計368人(令和2年2月現在)に上る。

■広がる活動

近年は、心臓移植を待つ子供を持つ家庭への経済支援にも乗り出している。

長期入院を支える家庭では、家族が病院に通う交通費などもかさむ。付き添いのために保護者が離職・転職や引っ越しを余儀なくされるなど経済的に追い込まれていくケースも多い。

また、先天性心疾患の治療を担う小児心臓血管外科医を育成する医療界の活動に助成も行っている。企業などと協働し、病院内で家族写真の撮影会や出張授業を開くなど、長期入院中の子供と家族に笑顔を届ける取り組みにも力を入れている。(三宅陽子)

「あけみちゃん基金」への振り込みは、ゆうちょ銀行00960―1―313874、みずほ銀行東京中央支店・普通口座567941の「あけみちゃん基金」まで。お名前を産経新聞の紙面で紹介させていただきます(匿名も可)。

■限られる心臓移植 待機長期化

重い心臓病を患う子供たちが、国内で心臓移植を受けられる機会は限られている。

日本臓器移植ネットワークによると、令和6年1年間に国内で実施された心臓移植は111件だったという。一方で、国内の心臓移植希望は7年11月時点で788件に上る。年代別では10代が56件、10歳未満は47件となっており、多くの患者が「移植待機」の状態にある。

待機期間は長期化の傾向を示す。

移植医らによる日本心臓移植研究会のまとめでは、4年9月までに小児用補助人工心臓「EXCOR(エクスコア)」を装着した103人のうち、42人は心臓移植にたどり着いたが、10人は移植にたどり着けずに亡くなった。

エクスコアの装着期間は長くなる傾向で、4年9月末時点の平均は428日に及び、最長では1240日だった。

心臓移植にたどり着けると、子供らは元気を取り戻すことができる。だが、国内で移植医療への理解は深まっているとはいえない状況だ。

人口100万人あたりの臓器提供者数は日本は1・20人で、スペイン(49・38人)や米国(48・04人)などと比べると少なさが際立つ。

こうした事情を背景に子供を中心に海外での心臓移植を目指すケースもある。

基金はこれまでに、心機能が衰えた子供たちが移植を待つために欠かせない小児用補助人工心臓を、国立循環器病研究センターなど6施設に寄贈している。

関連記事

記事をシェアする