ソニーがテレビ事業を分離した本当の意味 ドラスティックな改革はついに最終章へ

経済 産経新聞 2026年02月01日 14:00
ソニーがテレビ事業を分離した本当の意味 ドラスティックな改革はついに最終章へ

ソニーがテレビ事業とホームオーディオ事業を、中国の家電大手TCLとの合弁会社に移管すると発表した。エレクトロニクスの巨人によるドラスティックな改革は、ついに最終章へと進んだようだ。

ソニーが2026年1月20日、ひとつの時代に区切りをつけた。テレビ事業とホームオーディオ事業を、中国の家電大手であるTCLとの合弁会社に移管すると発表したのだ。

合弁会社の出資比率はTCLが51%と過半数を保有し、ソニーは49%となる。製品の開発・設計から製造、販売、物流、顧客サービスまで、ソニーのテレビブランド「BRAVIA」を成立させてきたバリューチェーンの大半が、この新会社へと組み替えられるわけだ。規制当局の承認を経て2027年4月の事業開始を目指すという、いささか大がかりな“手術“である。

このニュースに触れたとき脳裏をよぎったのは、かつて世界を席巻したトリニトロンの残像だった。1968年に誕生したトリニトロンは、ソニー独自の高画質カラーブラウン管(CRT)の方式として一時代を築いた技術だ。それはソニーという企業のアイデンティティそのものであり、ソニーが世界を制していた時代の象徴でもあった。

そこからおよそ60年。今回の決断を、感情のままに「ソニーの敗北」と片付けてしまうのは、少しロマンティックに過ぎる。ソニーが長い時間をかけて進めてきた事業ポートフォリオの転換が、いよいよ“最後の重たい部品“に手を付けたことを示しているからだ。

テレビという製品カテゴリーが、もはやソニーにとって成長のエンジンではないことは明らかだった。それでも、ホームエンタテインメントの“顔”としてのテレビの存在感を保つことには意味があった。少なくとも、状況がここまで動くまでは──。

テレビが花形事業だったのは、家庭の娯楽の中心に座り、なおかつ収益を上げやすい産業構造をもっていたからだ。トリニトロン管やブラウン管を高品位に量産できれば、それ自体が優位性になった。

ところが、薄型テレビの時代になって勝負はディスプレイのパネルへと移った。テレビの原価を決めるのも、画質の基礎体力を決めるのも、パネルである。そのパネルの生産は巨額かつ継続的な投資を要求するので、撤退できないチキンレースになったのだ。メーカーの収益性は「いかに安く、安定して、必要な品質のパネルを確保できるか」で大きく左右されるようになった。

そこでソニーは2000年代中盤、韓国のサムスン電子との合弁会社であるS-LCDを通じてパネルに投資した。しかし最終的には自社でパネルを抱える道から降り、外部調達を前提にしたモデルへと移行していく。

結果として当時は、サムスンやLGエレクトロニクスが日本勢から玉座を奪ったように見えた。しかし、さらに時間が流れたいま、勝者の顔は別の方向へ向かっている。

そんな勝者のひとつがTCLだ。TCLはパネル子会社のTCL CSOT(華星光電)を通じて、パネルから最終製品までを握る垂直統合モデルを確立した。パネル価格の市況変動(いわゆるクリスタルサイクル)の影響を受けながらも、供給とコストをグループの論理で調整できる。薄型テレビの勝負が「供給網の設計」に変わった瞬間から、この優位は効いてくる。

それでもソニーがテレビで踏みとどまれたのは、2012年から18年にかけて社長を務めた平井一夫の改革があったからだ。規模を追わず、収益性を重視する。不採算なモデルを大胆に削り、プレミアム製品に集中し、2014年には分社化によってコスト規律を徹底した。こうして外部調達のパネルを使いながらも、バックライトやスピーカー、筐体、そして映像処理で差別化し、高付加価値なテレビとして「BRAVIA」を成立させたのだ。

しかし、その勝ち方には、もともと“弱点“が埋め込まれていた。外部パネルに依存する以上、コストの支配権は川上にある。そこへ超大型化の潮流が重なる。北米と中国で75インチ以上のテレビがプレミアム製品の中心になり、小さなLEDを液晶パネルのバックライトとして高密度に配置するMini LED技術が一気に現実解として浸透したのだ。ハードウェアのスペックが見えやすい領域ほど、供給網の強いプレイヤーが勝ちやすい。

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