塩野義製薬は8日、米子会社を通じて米国政府と、抗菌薬の現地製造に向けた契約を結んだと発表した。医薬品の国内供給体制を強化する米国の国家プロジェクトの一環で、塩野義は米政府から製造拠点の立ち上げなど最大4億8200万ドル(約763億円)の資金を受ける見込み。世界最大の医薬品市場の米国を巡ってはトランプ関税などで不透明感が増しており、日本の製薬企業は現地投資加速などでリスク分散戦略を講じている。
同社にとっては初めての米工場となる。製造するのはグラム陰性菌感染症治療薬「セフィデロコル」(商品名フェトロージャ)で、2029年の商用生産を予定する。セフィデロコルのようなベータラクタム系の抗菌薬は専用設備が必要で製造難易度が高いとされるが、同社によると、すでに製造受託企業と連携して設備構築や技術移転を進めているという。
セフィデロコルは米国で肺炎などの治療薬として承認され、24年度の米国売上収益は約200億円。現在は岩手県金ケ崎町の工場で生産し、欧米に輸出している。今後は米工場を加えた2拠点体制とし、米国向けの安定供給に加え一部は欧州への輸出も視野に入れる。
同社は「米国政府の支援を受けている既存の研究プログラムや米国での事業拡大がさらに強化されることが期待される」としている。
米国では医薬品の国内製造基盤の強化が進んでおり、政府が資金を拠出して企業投資を呼び込む仕組みが構築されている。今回の契約にはセフィデロコル製造設備の整備に加え、医療現場での安定調達や投与対象の拡大に向けた開発支援も含まれる。
世界最大の医薬品市場である米国の動きは各国の製薬企業の業績を左右する。トランプ米大統領は昨年10月からの医薬品関税の発動を示唆していたが、実際には発動せず、薬価引き下げを巡る企業との交渉を進めてきた。
今月2日には海外製医薬品などに原則100%の関税を課す方針を発表。日本に対しては貿易合意に基づき15%とする一方、米国内での生産や薬価引き下げを約束した企業への軽減措置も設けており、各社の米国投資を後押しする可能性がある。(清水更沙)