マッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)の若手コンサルタントが、かつては自社の文体に合致しているかどうかを確認するためにレポートを精査していたのは、そう遠い昔のことではない。
現在では、「Tone of Voice」と呼ばれるAI(人工知能)エージェントがその作業を担っている。
ボストン・コンサルティング・グループ(Boston Consulting Group)では、コンサルタントが「Deckster」というツールを活用し、パワーポイント(PowerPoint)のスライドを仕上げる作業に費やす時間を短縮している。アーンスト・アンド・ヤング(Ernst & Young:EY)では、給与担当部署に連絡する代わりに、コンサルタントがチャットボットに給与明細の説明を求めることができる。
「エージェント型AI」が会計コンサル「ビッグ4」のビジネスモデルを塗り替えている | Business Insider Japan
コンサルティングファームは生成AIブームの初期からその牽引役となっている。他社の従業員教育や新ツールの開発、テクノロジーの規制策定を支援しているのみならず、自社内でも生成AIの実証を進めている。
そして、わずか過去2年の間に、新たなチャットボットやエージェント、アプリケーション群を次々と発表し、コンサルタントの働き方を急速かつ静かに変革してきたのである。
同社では、「Lilli」と呼ばれる社内向け生成AIチャットボットをコンサルタントが活用している。Lilliは、マッキンゼーが100年にわたり蓄積してきた10万件以上の文書やインタビューを含む知的財産全体を統合している。ユーザーがリクエストを入力すると、Lilliは要点を集約して、関連する社内コンテンツを5~7件特定し、さらに適切な社内の専門家へと案内する。ユーザーは、社内のナレッジリポジトリまたは外部ソースのいずれかから回答を得ることを選択できる。
Lilliは2023年の導入以降、社内での利用が爆発的に増加し、現在では全従業員約4万5000人のうち70%以上がLilliを利用している。利用者は週に平均17回Lilliを活用していると、マッキンゼーのシニアパートナーであるデルフィーヌ・ズルキヤ(Delphine Zurkiya)氏は述べている。
Lilliは導入当初、社員は「プロンプト不安」と呼ばれる、AIに何を尋ねればよいのか分からないという戸惑いを経験したが、1時間のトレーニングを受けるだけで利用率が大きく向上したという。
ズルキヤ氏によれば、Lilliは大きく進化をしている。当初は、同社の知識の大部分が存在するパワーポイントの解析を想定して設計されていなかった。しかし、現在は、調査、文書要約、データ分析、ブレインストーミングなど幅広い用途で活用されているとマッキンゼーのコンサルタントはBusiness Insiderに語っている。同社のウェブサイトに掲載された事例によれば、Lilliを使うことで社員は作業時間を30%削減することができたと報告されている。
自らを「Lilliのヘビーユーザー」と認めるズルキヤ氏は、チームとともにクライアントの課題解決に最適なアプローチを特定するためにLilliを頻繁に活用していると述べている。
私たちはまるでAIが同じ部屋にいるかのように、しばしば「Lilliならどう考える?」と言いながら議論しています。
マッキンゼーのパートナーたちは、同社は何年も前からAIプロダクトの開発に取り組んできたとBusiness Insiderに語っている。2015年にはデータアナリティクスとデザインの会社であるQuantumBlackを買収し、現在ではマッキンゼーのAIコンサルティング部門となっている。QuantumBlackには世界50カ国で7000人のテクノロジー専門家が在籍している。
シニアパートナーのベン・エレンツワイグ(Ben Ellencweig)氏は「私たちの業務の約40%はアナリティクスやAIに関連するものであり、その多くが生成AIに移行しつつあります」と昨年語っている。マッキンゼーはマイクロソフト(Microsoft)、グーグル(Google)、アンスロピック(Anthropic)、エヌビディア(Nvidia)など19社のAI関連企業との「エコシステム」型アライアンスを通じてクライアント向けの生成AIソリューションを構築し、400件以上の生成AIプロジェクトを完了している。
ズルキヤ氏によれば、ChatGPTの人気によって対話型ツールの価値が明確になったという。
私たちの戦略が大きく変わったわけではありません。すでに多くのツールを社内で開発していましたが、自然なユーザーインターフェースのおかげで、こうしたツールがより迅速に価値を提供できるようになっただけなのです。
なお、マッキンゼーのコンサルタントはChatGPTにはアクセスできない。
Lilliは同社内で業務を変革する複数のAIツールの一つに過ぎない。ズルキヤ氏はAI技術の導入が3つのレベルで進んでいると説明する。個人レベルでは、コンサルタントが自らAIエージェントを構築できるプラットフォームがあり、これにより自律的に問題解決やタスク実行が可能となる。次に、より専門領域に特化したツールが存在し、ズルキヤ氏が所属するライフサイエンス部門では、業界内の特定企業について迅速に把握するためのエージェントが活用されている。さらに、会議や出張の予約など全社的に利用できる新たなツールも導入されている。
同社はLilliの開発で得られた知見を新たなクライアントプロジェクトにも応用し、顧客のニーズに合わせた類似ツールの開発も進めている。
生成AIツールに対する期待が高まる一方で、コンサルタントたちは自らの職が脅かされることを懸念していないようだ。匿名のプロフェッショナル向けSNS「Fishbowl」へのマッキンゼー社員の投稿では、同社のツールは「十分に機能的」だが、「リスクの低い課題」に最適だと評されている。